モテモテ36
放課後の屋上で俺はある人を待っていた。
どうしてこの状況になっているかというと、十分前に届いたメール。それが全てだ。
日野彩香から一通のメールが届いた。内容は、『茂木君に大事な話があるので屋上で待ってます』とのことだった。
俺は逸る気持ちを抑えられずにダッシュで屋上まで向かったが、誰もいなかった。
今は、早く来すぎて後悔している最中なのだが、ここに来る前も思ったけど大事な話ってなんだ? そもそも俺と日野は共通点が少ないんだよな。
メールを見た瞬間は、告白とか馬鹿な妄想をしていたんだが、それはない。直感でわかるんだよな。嫌な予感しかしないんだよ。いっそのこと帰ろうかな。
ネガティブなオーラを漂わせて空を見上げていると、扉が開いた。
太陽はもう沈むっていうのに、ここにもう一つ太陽があるかのような輝き。流石は日野。
昼と同じく申し訳なさそうに走ってくる日野の胸元が揺れる。俺は今回は紳士的に目を反らす。
「ごめんね。待たせちゃって」
「別にいいよ。それで話って」
はーはーと息を切らす日野さんに爽やかに対応。飾霧。俺頑張ってるよ。
「あ、そうだったね……」
ちょっとどうしたの? なんで頬染めてもじもじしてるんだよ。まぁ、わかってるけど聞いてやるか。
「それで、なにかな?」
「……えっとね」
恥ずかしくて言葉が出ない。そんなところか、もじもじが止まらない。どのくらい経ったのだろう。ついに、俺に視線を固定させると、口を開いた。
「……私、好きな人がいるの」
「そうなんだ」
一度体験してるから動揺はしない。けどドキドキする。
「そうなの。話、聞いてくれる?」
「いいけど」
ここまで来て、話を聞かないなんて言える程、俺の肝は座っていない。
日野は「ありがとう」と言った後に、少し呼吸を整えると続けた。
「……その人は……一年の時クラスが同じで、あまり話したことはなかったんだけど……その頃から好きで……でも……その思いが伝えられなくて、気付いたら進学してて……クラスも変わっちゃて……もうこのまま諦めようかなって思っていたんだけど……」
同じクラスであまり話せなくて、それでいて違うクラスになったって、絶対俺しかいないじゃねぇか。確定だな。確定。はぁ……。
「……この前の昼休み。財布を忘れた私は、何も食べられずお腹を空かしていたの。そんな私にご飯を分けてくれた。その時、まだ好きだって確信したの……もうこの気持ち抑えきれないーー」
これは決まりだろ。弁当あげたしな。お金忘れて腹が減ってたのかは知らんけど、きっとそうだな。少し疑ってたが俺で間違いない。それにしても日野さんと付き合うのか、胸は大きいし、可愛くて、何より明るくて元気。料理は下手だけど、そこを差し引いても、胸の大きい素敵な女性だ。
ヨーシッ。コォォォオイッ!
「ーー涼太君が好きなの!」
「そっかあ」
思っていた通りだったから、衝撃ゼロだったな。ご飯の件でも聞くか。
「聞きたいんだけど、涼太がご飯をくれたとかなんとか」
「それは、先週の月曜日購買に来たはいいけど、お金がなくて困ってた私に涼太君が焼きそばパンをくれたの」
ああ、あいつが委員会だった時か、それにしてもここで俺の二番目に好きな焼きそばパンを召喚するとは、涼太のやつもなかなかやるなーーってなるかああああ! なにイケメンが焼きそばパン渡してんだよ。それのせいで、俺の弁当じゃなくて、飾霧の弁当負けちまったじゃねぇーか。あんなに美味いのに飾霧が可哀想だろ。
一応こっちも聞いとくか。
「そうなんだ。それで、涼太が好きって事をどうしてこの俺に」
「それは……私が。まだ告白する勇気がなくて、でもこの前の事があって気持ちが抑えられなくて、誰かにこの気持ちを打ち明けたかったの。そんな時に今日一緒にご飯を食べた茂木君は、美味しくもないサンドイッチを食べて美味しいって言ってくれて、優しい人だなって、この人なら言っても大丈夫かなって思ったの」
あのサンドイッチまずいの気付いてたのかよ。美味そうに食ってたから味覚おかしいのかと思ってたのに、演技だったのかよ。それにしてもなんて演技力だ。
俺のことを好きでもないんだから、気兼ねなく言うぜ。
「サンドイッチ気付いてて食わせたのかよ」
「ごめんね。許して」
中腰で合掌したせいで、暴力的な胸も一緒に合掌して谷間がーーありがとうございます!
「許す」
色んな意味を込めて即答。
「ありがとう。やっぱり優しいね。もし嫌じゃなければこれからも相談に乗ってくれる?」
小首を傾げ、上目遣いで目をパチパチとしても無駄だぞ。
「でもなー」
「暇な時でいいから、お願い」
日野は俺の手を包み込んでぐっと身体を寄せ、再度合掌。
彼女の柔らかくて暖かい手に包まれていると、今にもおかしくなりそう。というか胸も顔も全てが近い。
これがリア充の力か……今にも甘い香りと彼女の体温で、俺の心臓は破裂寸前。溶けた脳みそが耳から出そうだ。
慌てながら後ずさる。
「わわわわわわ、わかった」
「ありがと」
日野はにこっと笑ってから手を離し、距離を取る。さっきの感触を名残惜しむも安堵の息をこぼし、少し遅れて返事をする。
「ーーお、おう」
「それじゃあ。またね」
そう言い残し、風のように去って行った。やはり日野は嵐みたいだ。
それにしても涼太はモテるな。もう二回目だから全然ダメージは残ってないが、あいつ俺の邪魔しすぎだろ。
無意識に邪魔してるとしてもたちが悪いぜ。
親友じゃなかったら、血祭りにあげているところだ。




