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モテモテ35



 翌日の昼休み。


 やってきました手作り弁当。人生で二回目の手作り弁当だが、こっちの方が断然うれしい。

 魔王の弁当は味こそ最高だったが、俺の為に作ったというよりも、自分の為にみたいなところがあったからな。

 しかもあいつは女じゃない。昨日そう決めた。対して、今日弁当を作って来てくれるのは、運動部断トツ人気の日野さんだからな。高ぶる鼓動が抑えられないぜ。


 まぁ、二人きりじゃなくて我の親友のイケメンも一緒なんだけどな。


「遅いな~」


「そうだな」


 涼太と二人屋上で待機。昨日の夜にメールで、昼休みに屋上待ち合わせと言ってたからだ。


 涼太と雑談をしつつしばらく待つと、屋上の扉が開いた。


 そこから太陽のように眩しく光り輝く日野が現れた。手にはバスケットを持っているようだ。


 申し訳なそうに、走ってくる日野の胸元が揺れる。

 そんな疚しい目で見てはダメだと思いながらも、俺の目があああああっ! 焼けるうううううっ!


「ごめーん。ちょっと職員室に呼ばれちゃって」


 フェンス近くに座っている俺達の前に来るや否や深々と謝罪。


 ブラウスの胸元ががっつりと開いており、小麦色の肌が露わになる。剥き出しになった鎖骨に目が眩む。ブラウスを押し上げる二つの膨らみが理性を溶かす。

 座っているから角度的にも見えてはならないものまで見えてしまいそうで、血が沸騰寸前。


 宇宙が一つ誕生するかのようなエネルギーを感じる。主に下半身から。そんな最低な事しか考えられない青春ブタ野郎の俺は、あまりの刺激の強さに目線を逸らして動揺しまくる。


「そそそそ、そうだったんだ。そそ、それじゃあ、しょ、しょうがないよ」


 俺とは正反対の涼太は冷静に口を開く。


「確かにそこまで待ってないしな」


「そっかあ、よかった。それじゃあ早速食べよう!」


「ま、待ってました」


「そうだな」


 俺達の前に日野はぺたんと座り、手に持ったバスケットを目の前に置いた。


「ジャジャーン」


 そう言ってバスケットを開けると、サンドイッチがぎっしりと詰まっている。色とりどりで食欲をそそる。


「おー。うまそう」


「ほんとだな」


「自信はそこまでないけど、どうぞ食べて」


 日野さんは不安そうな様子を漂わせるも、にこっと微笑む。


「それじゃあいただきます」


「いただきます」


 俺と涼太が各々サンドイッチを取り口に運ぶ。その姿を見て、不安そうに豊満な胸を両手で抑え目をパチパチさせ、「ど、どうかな?」と小首を傾げる日野に俺は言った。


「……う、うまい!」


 少し反応が遅れたのはうまくないからだ。なんでサンドイッチでここまで美味しくないものが作れるんだ。卵焼きを作ろうとして、ダークマターを作った俺に言われたくはないだろうが、酷すぎる。


 涼太も遅れて返事をする。


「……うん。なかなかいける」


 流石はイケメン。表情はいつも通り爽やかさを保ったままだ。


「よかったー。自信なかったから。いっぱいあるからどんどん食べて」


 俺達の言葉にほっとした表情を見せた日野は、ニコニコと嬉しそうにサンドイッチを進めてくる。


 純粋な暖かい瞳とその可愛いさに断れないというか、どうにか誤魔化しきらないと、という謎の感情が沸き上がる始末。この笑顔は俺が守る。


「お、おう。次はどれにするよ涼太?」


 俺が守るとか言ったが、まずは涼太に振ってみる。


「お、俺は、このトマトのやつにしようかな」


 やはりお前も行くのか。それなら俺も行くしかない。


「それオススメ!」


 嬉しそうに、にこっと笑う日野。オススメ怖い。


「そっかあ、じゃあこれで」


 涼太の顔が歪んだように見えたのは俺だけだろうか、当然オススメを避けるべく違うのを手に取る。


「なら俺はこっちのチーズのやつにしようかな」


「それもオススメ!」


 はいアウト! まさかのオススメだらけ。このバスケットの中はオススメの巣窟。不味さの宝物庫。こりゃ……地獄だな。


「へ、へー。楽しみ」


 できるだけ平常心を保って返事をした後に、恐る恐るかぶりつく。涼太も、俺を一瞥してからかぶりついた。


 なんだこの苦味と酸味は、何を入れたらこうなる。見た目はいいのになぜなんだ。それでも……言う言葉は、ただ一つ。


「う、う、うまいな」


「こ、こ、こっちもうまい」


 俺と涼太はあまりの不味さに二文字ほど言葉を多く言ってしまったが、どうだろう。


「二人に喜んでもらえてよかった」


 こっちらもよかった。バレてないみたいだ。


「そうだ。日野さんは食べないの?」


 涼太がまさかの発言。そんなことしたらバレちゃうだろ。でもここは今後のためにも自分で食べ、この酷い味を知ってもらうというのも一つの手かもしれない。


「あー。私は大丈夫。二人のために作ったから」


 ひまわりのように微笑む日野はキュート。


「いや、でもせっかくだからさ」


 涼太どんだけ押すんだよ! でも、確かにそれしか助かる方法がない。このままでは俺たちの命が危ない。やむを得ないか、俺も乗ったぜ。


「そうだよな。せっかくだから一緒に食べようぜ」


「そう? そこまで言うなら食べようかな」


「うん。食べよう」


 よし。なんとかなりそうだ。

 後は食べたら透かさずフォローを入れればいいだけだ。


「じゃあ私これ」


 日野が手に取ったのはたまごサラダ。あれが一番やばそうなんだけど、だって混ぜてるんだよ。他のは挟むだけなのにあんなに不味いんだよ。見た目は平気そうだけど、本当に大丈夫かな?


「ーーうーん。美味しいね」


 ぱくぱくと食べる日野は偽りのない笑顔だった。


 これはたまごサラダならワンチャンあるんじゃないか。


「そうだね。もう一つもらおうかな」


「それじゃあ、俺ももう一つもらうよ」


 俺と涼太は考えることは同じなのか、たまごサラダを二人して手に取って口に運んだ。


 ……まっず。どうなってんだよ日野の味覚はよーっ。

 確か、飾霧の食った時も美味しいそうに食べてたよな。てことは、結局のところなんでもうまいのかよ。それって、やばすぎるだろ。味見とか無意味ってことだから、料理センス皆無ってことになるな。もう作ってもらうのは無し。絶対に無しだ。


 正直なところもう食べたくはないが、残すのは悪いし食べるしかなかった。


 俺と涼太は我を忘れて必死に食べた。それに反比例するかのように、日野は美味しそうに食べていた。


 全部食べ終えると、何か見えそうになった。そう、見えてはいけないものが。俺はそれを紛らわすために口を開く。


「あ、あれだな。めっちゃ食ったな」


「そ、そうだな。食べたな」


 流石の涼太も体調が悪そうだ。表情に現れている。


「二人とも全部食べてくれるなんて、感激。頑張って作った甲斐があったよ。また作ってあげちゃう」


 今日最高の笑顔で、両手を握りしめて可愛くポーズ。そんな日野には悪いが言わせてもらう。


「そ、それは、いいかなー」


「え! なんで?」


 驚く日野に対して、しどろもどろ言い訳をする。


「ほ、ほら、やっぱり作るのとか大変だし、部活とかもやってるから時間とか大事だし」


「俺もそう思うな。今度は学食とかで一緒に食べよう」


 涼太ナイス。てかお前も必死なんだな。


「そうかな? そういうことならそれでもいいけど」


 怪訝な様子で二人の顔を見つめる。そんなに見つめないで、ごめんなさい。


「うんうん。また一緒に食べよう学食で」


 無駄に学食を強調。


「そうだな。学食で食べよう」


 涼太も心なしか、学食を強調しているようだ。


「わかった。次は学食で食べようね」


 日野も学食を強調したように思えたのは多分気のせいなのだろう。


 どれだけ愛がこもっていても、不味いもんは不味いと教えてもらった特別な日となった。




 放課後の屋上で俺はある人を待っていた。





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