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モテモテ33



 今日も今日とて、俺は離れの部屋でシンプルなフォルムの椅子に腰掛ける。窓枠に手をかけ、そこに顔を置きながらぼけーっと外を眺めていた。俺の目に映るのは青春溢れだす運動部。掛け声がやたらと心に響く。


 こんなことしてないで部活でもやればよかったなと、心底思った。


 入学当初からモテモテになると信じていた俺は、部活に時間を割かれてはハーレムが台無しだ。とか意味不明過ぎる理由で部活に入らなかったんだけど、今思うと馬鹿だった。俺はしょうもない人間だ。


 でも涼太も部活に入ってないんだよな。あんなに運動神経抜群なのに、なんでなんだろう……イケメンの考える事が俺に理解できるわけもないか。


「はははははは……」


 独りの世界に入っている俺は、空笑いをした後に嘆息。そしてまた外を見つめていると、氷のように冷たい声が聞こえる。


「突然どうしたのかしら?」


 色々あるんだよ。今になって、俺は何してんだろって、そういう時あるだろ?


「聞いてるのかしら?」


 俺が聞いてほしいんだよ。モテるなんて実際無理な話だったんだよ。


「いい度胸ね」


 俺に度胸なんてないんだよ。どうせ俺はモブなんだよ。親友件、主人公の恋の応援をしているのがお似合いなんだよ。


 --そうか! いい事考えたぞ。俺は恋のキューピットとして女の子の手助けをし、予め好感度を上げておく。もしその子が告白して振られたら、その時がチャンスだ。


 きっとその子は悲しさのあまり弱っているはずだ。そこに付け入れば、もしかしたらーー


「痛っでぇ。ーーなんだ? 頭に何かが?」


 後頭部をさすりながらきょろきょろと周りを見回していると、涼しい顔をして紅茶を飲む飾霧と目が合う。


「おい。なんか投げたろ」


 下には何も落ちてないな。奴め、何をしやがった。闇の力を纏った気。闇気弾ダークブラストを放ったというのか! やはり魔王だったか。


「知らないわ。小さな隕石でも落ちたのではないかしら」


 そうか、闇隕石ダークメテオだったか。


 無表情で淡々と言う。その態度と発言に怒りを覚えた俺は声を荒げる。


「どんだけピンポイントで落ちてきてんだよ! 当たった感じからして後ろだったからな。ーーよって犯人はお前だ!」


 ビシッと指を差したが、それを見た飾霧は呆れた様子で口を開く。


「細かいわね。だからモテないのよ」


「前も聞いたわ」


「そう。虫にしては記憶力がいいのね」


 飾霧はいつにもなく楽しげな表情だ。そうか、俺をいじることを生きがいにしているんだな。このこの~。


「いつから虫になったんだよ。こんなデカい虫がいてたまるか、どこのゴキブリだよ」


「あら、ジョージジョージと言われても聞き取れないわ」


「言ってないからね。てか完全にゴキブリじゃねぇか」


 女でこのネタについてくるやつは中々いないぞ。只者じゃないな。流石ヒロインクラスと言ったところか。


「さっさと作戦会議を始めるわよ。ジョージ君」


 何もなかったかのような表情で、勝手に話を始めやがったよ。


「誰がジョージ君だ! でもなんか、響きがいいな」


 実は俺、外人とかに物凄い憧れてたんだ。外人て彫が深くてTHEイケメンて感じだからな。


「気に入って貰えたのね。ジョージ君」


「ああ、今度からジョージ君で頼む」


 俺は今日からジョージとして、イケメンとして生きていくんだ。


「明日の作戦は、優れた運動神経を見せつけて女子の好感度上げちゃおう」


 いつも通りの余裕のスルーだぜ。それと、今回の作戦は俺でもわかってしまった。


「明日の体力測定だろ?」


「よくわかったわね」


「そりゃどうも」


「わかっているなら説明はいらないわね」


「いや、一応お願いします」


「仕方ないわね。体力測定でいい結果をだす。以上」


「りょ、了解」


 うーん。実にシンプルだ。


 仕方ないから、火星で進化した真のゴキブリの力を見せつけてやるとしますかね。見てろよジョージの本気!!!






 翌日、体力測定が終わり昼休みの教室。


 体力測定の結果をダイジェストでお送りします。


 ハンドボール投げです。

「おりゃあああああ」記録25メートル。


 反復横飛びです。

「おらおらおらおら」記録50回。


 1500m走です。

「うおおおおおおお」記録6分ジャスト。


 50m走です。

「おらああああああ」記録7.3秒。


 握力です。

「ふがああああああ」記録右45左43。


 上体起こしです。

「うりゃうりゃうりゃ」記録26回。


 立ち幅跳びです

「ぴよ~~~~~ん」記録222㎝。


 長座体前屈です。

「うんんんんんんん」記録68㎝。



「なぜだああああああああああああああああああッ!」


 火星での暮らしは、そんなに生易しいもんじゃなかったはず。こんな結果なんてあんまりだ。全部平均以上で突出したのが長座体前屈だけって、しかも全部平均のちょっと上だから全然目立たなかった。


 昔から得意な長座体前屈だけは謎に目立って恥ずかしかったわ。軟体生物のもっちゃんと呼ばれてた頃を思い出して涙が出た。


 突然の叫び声にクラス中の視線が集中しているので謝罪。


「すまん」


 それに気が付いた涼太が近づいてくる。


「どうした? また悩み事か?」


「俺より運動神経がいい奴には、教えない!」


 マジでイケメンこの野郎!


「なんだよそれ。そういえば、今年も長座体前屈は勝てなかったわ」


 それ以外は全部勝っててよく言えますね。けっ!


「嫌味か! 呪い殺すぞ」


「目がガチで怖いんだけど」


「ガチですもん。やったるぞゴラァ! 」


「まぁ、そんな怒るなよ。学食行こうぜ」


「しょうがねぇな」


 この心を癒すには、カレーを食うしかないな。


 教室を後にし、二人でとぼとぼ歩いていると、後ろから明るい声が聞こえたので振り返る。


「茂木君に津賀君。待ってー」


 そこにいたのは日野彩香。毎日元気いっぱいの今時JK。髪は明るめの茶色、髪には少しウェーブが掛かっている。小麦色の肌と豊満な胸が特徴的。


「えっ? 日野さん」


「何か用事か?」


 急な登場に驚く俺と、冷静に尋ねる涼太。


「たいした事じゃないんだけど。この前のお弁当のお礼に明日お弁当作ってきてもいい?」


 日野の頬は少し赤みがかっている。


 確か、お弁当食べられたときに、「今度お返しするからね」って言ってたな。でも弁当か、思ってたのと違う。断ろう。断じて思ってたのと違うから断るのではない。あれは俺が作った物じゃないからだ。


「いや、悪いしいいよ」


「そもそも俺は関係ないから」


 関係ないと冷たい涼太。


「いや、二人で食べてたの邪魔しちゃったから。だから作らせて」


 上目遣い可愛いんですけど、美女が作らせてって言ってるんだ。そりゃあ作ってもらうだろ。あっさりと折れる。それがモブ独特の習性だ。


「じゃあ、お願いしようかな」


「ーーそこまで言うなら」


 涼太はあまり嬉しくないのか、複雑な顔だ。


「それじゃあ、決まり! そうだ連絡取りたいから連絡先交換してもいい?」


 日野の首を傾げる仕草がキュート。俺のハートはメロメロだぜ! 


「是非!」


 まさかこうも簡単に運動部一番人気の連絡先をゲットしてしまうなんて、カレーを食う前に俺の心は癒された。


「別にいいけど」


 おい! さっきからこのイケメンは上から目線。略して上からイケメンになってやがる。どうしてくれようか。


 俺がどうやって涼太を血祭りに上げるか考えていると、日野が弾んだ声で、


「やった! それじゃあ、交換しよう」


 ひまわりのような明るい表情を浮かべ、飛び跳ねる日野の豊満な胸が上下に揺れる揺れる。俺の目も上下に揺れる揺れる。


 連絡先交換を終えると、「詳しくは後で連絡するね」と言い残し、風のように去っていった。


 本当に急に現れたと思ったらすぐにいなくなる嵐みたいな人だな。日野が通り過ぎた後に残るのは、快晴のような俺の笑顔だけだ。


 涼太。お前も少しは喜べ! 運動部断トツの人気を誇る日野彩香の連絡先だぞ。こら!


「涼太。こら!」


「なんだよ?」


 心の声が少し漏れたのはワザとだ。けっ!


「なんでもないわ。ぼけぇ」


「いきなり不機嫌か、情緒不安定だな」


「今すぐ打ってくれよ。精神安定剤」


「はいはい。早く学食にいくぞ」


 乗ってやったのにすぐ流すこれがイケメンクオリティー。


「けっ!」


 先に歩き出した涼太に向かって、俺の必殺技フランス革命を放った。それを華麗に交わす。これがイケメンクオリティー。


 ーーけっ!



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