モテモテ31
途中までは完璧だと思ったのに。初告白されるかもってワクワクが止まらなかったのに。まさか親友を好きだと告白されちまうとはな。
そういえば飾霧に、緊急事態なら一回だけ電話をかけてもいいと言われていたっけ。このどうしようもない気持ちを、俺も誰かに伝えたい。白石ちゃんの気持ちが今なら少しはわかる。
そうと決まれば善は急げ。素早くスマホを取り出し電話をかけた。
『……』
「ーーあの。繋がってます?」
『なに? もう遅いからこないと思っていたわ』
氷のように透き通る声。顔は見えないが、無表情なのがひしひしと伝わってくる。
「いや、かけるつもりはなかったんですよ。つい五分前までは順調だったんで」
本当に順調だったんだ。ちきしょー。今思い返すと涙が出そうだ。
『どういうことかしら? 無理矢理襲ったりしたのなら通報するわよ』
「そんなことしませんよ」
なぜすぐに疑われるんだ。俺はそんな奴に見えるのか? これ以上傷つけても何も出ないというのに……いや待てよ? 口からなら何か出るかもしれない。きっと出しても、大人の事情でお花畑になるはずだ。次、傷つけられたら気兼ねなく出すことにしよう。
『そういえばさっきから元気がないわね。元気だけが取り柄なのに、かなりショックな出来事があったようね』
「その通りです」
やっと気づいてくれたか。元気なかったのはあんたのせいでもあるけどな。それにしても元気しか取り柄がないとか、今度詳しく聞かせてもらおうか、かつ丼でも食べながら。
『言ってみなさい』
「じ、実は、今日一緒に映画行った子が好きだってーー」
『よかったじゃない。おめでとう』
全く感情が籠ってないな! 今度、俺が直々におめでとうの言い方を教えてやるよ。
「話の途中ですし、それならこんなテンションじゃないでしょう」
『いいから早く。切るわよ』
「わ、わかりました。今言いますから。その子に俺の親友の事が好きだと言われたんです」
『ふっふふふ。ーーそれは最高に面白い展開ね。おめでとう』
オロオロオロオロオロオロッ! つい、出ちまったぜ。それにしても、今までで一番楽しそうだぞ! しかもおめでとうって、今度絶対に教えてやるからな。おめでとうの使い方も。
「笑ってますよね?」
『気のせいよ。それを伝える為にいちいち電話してきたの? だとしたらすごく気持ち悪いのだけれど』
確かに気持ち悪いと思う。だが、誰かに伝えたかったんだからしょうがないじゃないか。
「それだけって、言われればそれだけなんですが、緊急事態には変わりなかったので」
『そうかもしれないけど気持ち悪いわね』
「すいません」
もういいよ。どうせ気持ち悪いよ。こいつに癒しを求めたのが間違いだった。オロオロオロオロッ!
『調子が狂うわね。まぁ、あれよ。生きていれば色々あるということよ。あまり気にすることはないわ。女の子とデートできたのだから今日のところはよかったのではないかしら』
「……そうですね」
かなりわかりづらいけど、飾霧なりの励ましなのかもしれない。でも確かに、女子とデートできただけで前の俺よりは遥かにレべルアップしている気がする。
飾霧の言う通り、今日の出来事はいい意味として解釈することにしよう。
ーーポジティブシンキング!
『そうよ。では、また明日』
「はい」
あっさり切られてしまったが、人に打ち明けたおかげで少しは身体が軽くなった。白石ちゃんも、こんな気持ちだったのかもしれない。
先程よりは、幾分か軽くなった足取りで家に向かって歩き出した。
家に着くと、急に現実に叩きつけられた気がした。自室に寄り、直ぐに風呂場に向かった。疲れと心を癒そうと湯船に浸かる。すると、今日の記憶がよみがえり声が漏れる。
「……なぜこうなった」
あの時と同じ言葉が出るとは、もう納得したはずなのに。それにしても白石ちゃんが好きなのがよりにもよって俺の親友か。
確かに涼太はイケメンで、成績良くて、スポーツ万能で、爽やかで、優しくて、親友想いの良いやつだ。完璧で弱点がない。好きになるのも当然だ。
それに白石ちゃんなら、涼太と付き合ってもいいかもって、俺も思うしな。つい、保護者みたいになってしまった。やれやれ、あいつとは長い付き合いだし、ちゃんとしたいい子と付き合ってほしいからな。
ーーこんなに納得していても暗黒面の俺が叫ぶんだ。
「イケメン滅びろおおおおおおおおお!」
……辛すぎる。思いのほかダメージが深かったようだ。白石ちゃん。表情豊かで、いい香りがして、優しくて、可愛かったな……。
「ーー俺は結局モテないのかよ……」
悲痛な囁きは、湯けむりとともに天井へと消えていった。




