モテモテ30
途中まで帰り道も一緒なのでのろのろ歩いていると、白石ちゃんが唐突に指を差した。
「少し、公園寄らない?」
「えっ? いいけど」
突然の申し出に驚いたが、公園とか青春ぽいから大歓迎。
少し歩くとブランコや滑り台といったものが置いてある小さな公園に着いた。
「懐かしいなこの公園」
「ほんとだね。私も昔よく遊んだなー」
自然と口から懐かしさがこぼれた。まさか共感してくれるとは思わなかった。
「意外だな。想像できない」
「そうかな?」
「白石さんって大人しいイメージだったからな。中学とかでもあまり話さなかったし、本ばかり読んでただろ」
そう、小さい割に大人びていて、静かだった。外で遊ぶのが最も似合わない存在と言ってもいいくらいに。
「確かにそうかな。高校に入って変わろうと思ったけど、なかなか難しかった」
あっさりと認めた白石ちゃんは、変わろうと頑張っていたらしい。全く同じだった俺は共感せずにはいられなかった。
「俺も同じだよ。高校デビューみたいなの狙ってたしな。でも世の中って厳しいよなー」
「いきなりおじさんくさくなった」
クスッと笑う白石ちゃんは子供っぽく見えて、凄く可愛い。
「ーーもうおじさんだよ」
「そしたら私はおばさんになっちゃうよ」
まさか白石ちゃんが冗談を言うなんて、ぐっと距離が縮まった気がした。
「それもそうだな」
顔を見合わせた二人は笑い合う。笑い終えると、白石ちゃんが真剣な面持ちで口を開いた。
「茂木君、話があるの」
「お、おう。なんだ?」
急にどうしたんだ。もしかしてあれか、世にいう告白ってやつか。だとしたらどうすればいいんだ。緊張して手が濡れてきたぞ。
「えっとね……」
頬を染め、俯き気味で手をもじもじとさせる。少しの沈黙の後に、顔を上げ口を開く。
「じ、実はね……好きな人がいるの」
更に顔が赤くなる白石ちゃんに裏返った声で尋ねる。
「そ、そうなの?」
どうすんだこれ、心臓が高鳴り、その音が耳まで届く。
うん。と頷く白石ちゃんはゆっくりと話し始めた。
「……中学からずっとその人の事を見てきたの。あの頃は結局一回しか話せなくて……でも同じ高校入れたから次は頑張ろうって思ったの。でも結局一回も話せなくて……」
中学一緒で同じ高校。一回も話せてなかったって、俺しかいないじゃねぇか。やっぱり俺の事を、しかもずっと前から好きとか、そんなの全然気付かなかった。
「ーーそしたらこの前偶然助けてもらって、もっと好きになったの。もう……この思いを抑えきれないの……」
これは決まりだろ。最近助けたしな。少し疑ってたが俺で間違いない。それにしても白石ちゃんと付き合うのか、胸はないけど、可愛くて、何より話していて落ち着くというか。なんか俺には勿体無い気もするけど、君がそこまで言うなら付き合ってもいいかなーーなんてね。
「津賀君が好きなの!」
「そっかあ」
どうしようかな。一緒にこれからも遊んだり、イチャイチャしたり、しまいには大人の階段を登ったりとか……あれ? 今なんか聞こえなかった? 念の為もう一度聞いてみよう。
「えっと、なんて言ったの?」
「……涼太君が好きって」
そうそう涼太がね、そんなもじもじしなくてもわかってーー
「ええええええっ!」
「どうしたの?」
どうしたの? は、てめぇーだろ。なに紛らわし事してくれてんだよ。助けたの俺じゃねぇーか! お前の脳内どうなってんだ!
「ーーいや、なんでもない。それより涼太が助けたとかなんとか」
「それは、金曜日放課後の図書室で、脚立から落ちそうな私を涼太君が助けてくれたの」
おめぇ。何、二日連続で脚立から落ちそうになってんだよ。涼太いなかったら大ケガしてたぞ。我ながら俺の親友は気が利く。
ーーってそんなわけあるかああああっ!
何しれっと助けてんだよ。イケメンがそんなことしたら俺が霞むだろ。
……ああ、もういいや。それよりもっと聞きたい事があるから。
「そっかあ。それはわかったんだけど、涼太が好きってことを、なぜこの俺に」
「それは……私が。まだ告白する勇気がなくて。でもこの前の事があって気持ちが抑えられなくて、誰かにこの気持ちを打ち明けたかったの。でも私、友達いないからそれも無理で……そんな時に今日一緒に遊んだ茂木君は、話しやすくて優しくて、友達だって言ってくれたから、打ち明けてみたの」
ふっざけんな! よりにもよって親友だぞこら! そのうるうるした瞳が可愛いから許すけど。
「そっかあ。まぁ、それで少しでも楽になれたならよかったよ」
「うん。ありがとう。もし嫌じゃなければこれからも相談にのってくれないかな?」
それが狙いか! 親友の俺を利用する気だな。そんな安い手に引っかかるわけがないだろう。
「でもなー」
「暇な時でいいから、お願いーー」
「ーーそこまでいうなら」
そりゃ頷く他ないよね。顔を紅潮させ潤んだ瞳で上目使い。しかも柔らかい小さな手で、俺の両手をぎゅーっと握られたらね。
はいっ! レッドカードっ! 退場っ!
「本当に! ありがとう」
「おう」
嬉しそうでなによりだよ。くそが。
「言ってよかった。それじゃあもうそろそろ帰ろうかな」
「そうだな」
そりゃあ、そちらさんはよかっただろうな。スッキリだろうな。しかも終わったら用済みって、俺はナニした後のティッシュじゃねぇんだぞ!
「今日は本当にありがとう!」
「ああ」
俺も、もう帰りたいからいいけどな。心がズタボロだし。
「じゃあ、また明日学校で」
俺を残し、公園を後にする白石ちゃんの足取りは、今にも羽ばたきそうなほど軽い。それに比べ俺の足は、まるで地面とくっついているかのように重かった。
深いため息を吐き、ぽつりと呟く。
「……なぜこうなった」




