モテモテ24
出来上がった玉子焼きを切り分けて皿の上に乗せると飾霧が口を開いた。
「はい。次はあなたの番」
「その前に食べてもいいか」
余りにも美味しそうなのでどうしても食べたかった。
「いいわよ」
「では、いただきます」
あっさりと許しが出たので食べるとしよう。玉子焼きを箸で持つと、ふわっとしてるのが指に伝わってきた。ゴクリと喉を鳴らした後に一口。
「バルス!」
うますぎて、つい滅びの呪文を唱えてしまった。
口に入れた瞬間ふわふわで、甘過ぎずしょっぱ過ぎず丁度いい味付け、何個でも食べられそうだ。
「大丈夫?」
これは、頭大丈夫? ってことだろうが、大丈夫じゃねぇよ。箸が止まらないぜ。
「ごちそうさま」
あっという間に完食し、両手を合わせてお辞儀をする。
「食べ終わったなら早く作りなさい」
もう少し喜べよ。うまいうまい、言いながら食べてただろうが! 全く可愛げがないな。仕方ないからまた作ってもらうとしよう。
「よし! やってやる」
美味しいものも食ったし力は漲っているんだが、お手本がアレなものだから少し憂鬱だったりもする。
俺は同じく卵を三個取り、ボウルに打ち付けひびを入れ両手で慎重に割ると大破。ボウルの中は殻だらけ。それを腕を組みながら見ていた飾霧先生がため息を吐いた。
「ーー卵もまともに割れないのね。そんな人間が存在したのね。--あっ、ごめんなさい。貴方は人ではなかったものね」
「こら。言い過ぎだろ。これからだっての」
こんなこと前もあったよな。本当に人を馬鹿にする天才だな。マジで見とけよ!
「そう。これから魔法でも使うのかしら、楽しみだわ」
「そんなの使いません」
お前の口から魔法って言葉が出てきてびっくりだわ。
「早く続きをしなさい」
「はいはい」
理不尽にもほどがあるだろうが、全て俺のせいかよ。ちっきしょおおおお!
俺は卵をなんとか三個共割ってボウルに入れた。砂糖、醤油を適量入れかき混ぜ、熱したフライパンに油を引き卵を流し込んだ。そこまではよかったと思うんだがなぜか謎の黒い物体、ダークマターを作ってしまった。それを見た飾霧は気分が悪いと外に出て行ってしまった。俺はダークマターを見つめる。
「しょうがないから食べてみるか。味は美味いかもだし」
自分に言い聞かせるように言うと。ダークマターをパクリと一口。
……これは、なんだ? 口いっぱいに広がる不快な味。脳を刺激し目眩が襲う。身体に力が入らない。膝をついた俺はそのまま倒れ込んだ。どうにか力を振り絞って呟く。
「……まさに、地獄なり」
この言葉に満足したのか俺の意識は途切れた。
「ここは?」
目を覚ましバッと起き上がる。辺りを見回すと厨房にいた。
「目が覚めたみたいね」
後ろから飾霧の声がしたので振り返った。
「おお。俺、なんか記憶がーー」
頭を抑えるが何も思い出せない。俺はなんで寝ていたんだ……。
そんな俺を見た飾霧が皿を差し出してきた。
「これのせいよ」
「ーーこれだ! これを食べた瞬間口いっぱいに、苦味、臭みーー」
「もういいわ。気分が悪くなりそう」
皿の上の黒い物体を見て全ての記憶が蘇り、話そうとしたら飾霧に遮られた。
「そうか。なんか迷惑かけちまって悪かったな」
顔色が優れない飾霧に謝罪。
「気にしなくていいわよ。お弁当は私が作るーー」
「えっ! どうして?」
飾霧のあり得ない発言につい遮ってしまった。
「まだ話してる途中なのだけど」
「だって。作ってくれるとか言うから」
怪訝な飾霧に物申した。
「仕方ないわ。作れないのだから」
「それはそうなんだが、そこまでしてもらうのは悪いし」
「悪いと思うならさっさとモテ男になってもらえるかしら」
「はい」
はいとは言ったものの、そんな簡単じゃないんだよな……。
「なら、明日八時。ここに取りに来なさい」
「了解です」
マジで作ってくれるんですね。すごく楽しみ。だって美味しいだもん!
「今日はここまでにして私は帰るわ。戸締りよろしく」
「かしこまりました」
俺の返事を聞くが早いか、飾霧は銀髪を靡かせ踵を返すと、スタスタと優雅に歩いて行ってしまった。
女子の手作り弁当が食べられる時が来るなんて、人生捨てたもんじゃないな。




