モテモテ22
大盛カレーを食した後、俺は図書室で本を読んでいる。
図書室で本を読むのは嫌いじゃない。我が高校の図書室には沢山の漫画が置いてある。だから時間が余っていると図書室に来る事が多い。
ぼっちで昼飯を食べていた俺には沢山時間が残ってる。だから図書室で漫画を読みふけってるわけなのだが、今日はいつもに比べて人がいない。
いつもなら二十人かそこらは居るはずなのに今日は貸し切りと来たもんだ。
これは昨日飾霧が言ってたことが起きる前触れなのかも知れないと思ったけど、貸し切りの時点であり得ないか。
貸出口にも人はいないようだし、流石に全て的中とはいかなかったか。
どれどれ次の巻を持ってくるとするか、漫画は地味に奥の方にあるんだよな。案外人気ないのかも……。
俺は立ち上がり漫画コーナーに向かう途中で物音がしたので、自然と視線を移す。
「ほえっ!」
素っ頓狂な声を上げてしまったので咄嗟に口を押えた。
目に飛び込んできたのは、脚立の上で今にも落ちそうにふらふらとしている女子生徒の姿だった。
まさか伏兵がいたとはな。そんな感想を言ってる場合じゃない。図書室を使うにあたって最も重要なルール。
「図書室は静かに使いましょう」を破ってしまったせいで、こちらを向いた女子生徒が更にバランスを崩し落ちる直前だった。
俺は咄嗟に走って飛び込んだ。
「きゃああああ!」
「ぐへっ」
悲鳴を上げた女生徒の下敷きになった俺はカレーが出そうになった。でも、間に合ってよかった。
ただ普通のラブコメ展開にはならなかった。俺がうつ伏せになってる上に女子生徒が座ったみたいな形になった。
ラッキースケベどうしたんだよ。
「す、すいません。大丈夫ですか?」
立ち上がって崩れた制服を直しつつ手を差し伸ばしてくれた彼女は、小柄で華奢な身体、純白のような肌。高校生とは思えない幼い顔立ち、黒髪ボブで幼さ倍増。胸は当然の如く平らだ。
だが、俺は大きさは気にしないタイプなのでOK。
「ーーぜ、全然平気。俺こそいきなり大声だしてすまんな」
その手を掴み立ち上がり平然と対応。心配を掛けまいと我慢しているが、実は背中に激痛が走っている。昔からモテるためにと、少しは鍛えておいてよかった。じゃなきゃ折れてた。
「そんな。私の不注意ですから……あっ! 茂木君⁉」
前で両手をあわあわと振る仕草も可愛いのだが、そんな彼女は俺の事を知っていたみたい。不思議な事もあるもので……。
思い出せ。思い出せ。思い出せ……
「……白石だろ!」
「覚えててくれたんだ」
よっし! 正解したぞ。話したことは一度しかないのに思い出せた。可愛い子をそう簡単には忘れないもんだ。
にしても向こうが俺なんかの事を覚えてくれていたなんて、感激。
「そりゃ、中学同じだったしな」
「そっかあ、そうだよね。えへへ」
「そ、そうだよ」
すごい照れてるんですけど、どういう事なんですか先生。抱きしめても捕まりませんか? センセーイッ!
でも何故か違和感がある。昔とタイプが違う気がする。昔は本ばかり読んでいて物静かな感じだったような……。図書室に居るって事は本は今も好きなんだろうが、前より明るいし何より可愛い。
まさか、ニュータイプか⁉
「ほんと、ありがとう。助けてもらったからお礼とかーー」
「いや、いいって」
【悪魔の声】何断ってんだよ。カス! 最高のチャンスを溝に捨てやがって、だからいつまでたっても童貞なんだよ。
【天使の声】それでいいのです。貴方の声が原因だった可能性もあります。お礼をもらうほどのことではありません。
どっちも不正解だ! なぜなら。
「でも。お礼ぐらいさせてほしい」
ほらな。一回は引くのが常識だ。ここからが本番だぜ。見てろよ悪魔と天使。
「そうか?」
ここでとぼけるのがいいんだ。
「そうだよ。なにがいいかな?」
ほらな。乗ってきたぜ。
「別になんでもいいけど」
見たか、「なんでもいい」これが相手に更なる好印象を与える。
「じゃあ考えとくから念のため連絡先とか聞いてもいいかな?」
ーーこれは予想外だった。俺が密かに読んでいた恋愛バイブルにこんなのは載っていなかったぞ。
これは俺にも春がきたってことでいいのかな? だとしたら遠慮なく。
「いいいいいいけど」
『い』が、多めなのは大目にみて。冷静になるためにダジャレを一つ。俺はもうダメかもしれない。
「茂木君大丈夫?」
「き、気にしないでください」
敬語になってしまったがなんとか言えた。
白石は怪訝な表情を向けつつ小さく頷く。
「うん。じゃあ連絡先交換しよう」
「お、お願い致します」
挙動不審の俺が面白かったのか、クスッとマシュマロのように柔らかく笑った。
スムーズに白石と連絡先を交換。
これで二人目の連絡先をゲットだぜ。彼女から受け取ったのは携帯アプリのID。高校生の九割は使っているだろうこのアプリはかなり便利だ。スマホを振るだけで連絡先が交換できるんだぜ。
白石に教えてもらって今日初めて知ったんだけどな。
白石は小さな手でスマホをポケットにしまうと口を開いた。
「それじゃあ、また連絡するね」
「お願いします」
白石は嬉しそうにスキップ混じりで去っていった。
最近まで、俺のスマホに登録されている異性の連絡先は母ちゃんだけだった。なのに、ここ数日で俺のスマホに二人もの女性が登録されてしまった。
震える手でスマホを操作してアプリを開く。名前を確認すると白石佳代を発見した。フルネームで登録とはやはり少しお堅い感じがする。俺なんかカタカナでナオだぞ。因みに涼太はフルネームだ。なんかムカつく。
待てよ。これは本当に現実なのか、まさか夢落ちとかないよな?
ないな。当然現実だろう。なぜなら背中が痛い。
この奇跡的な出来事に俺は喜びたいのだが、飾霧の預言の通りになっているのが少し不安。
一個目二個目と飾霧だったのに、最後だけ飾霧じゃなかったのも不気味すぎる。
そんな事を考えても仕方ないから今はこの喜びを噛み締めるとしよう。
これが優しさ作戦の成果なのかは微妙なところではあるが、このまま頑張ってみよう。
俺はスキップ混じりの競歩で図書室を後にした。




