モテモテ18
目標は全て達成したしもう帰るだろうと思っていたんだ。この時の俺は。けど現実はそう甘くはない。
甘くはないと言ったが、今俺が居る場所は甘々だ。そう、ここはスイーツバイキング。
飾霧が「ついて来なさい」と言い向かった先で、このような出来事が起きるとは……
飾霧はお菓子というより、甘いものが好きだったのだと無駄な知識が増えた。
目の前で美味しそうにチョコレートケーキを食べている。それにしてもよく食えるな。もうかれこれ一時間は食べ続けているぞ。
俺はすぐに限界がきたのでコーヒーを飲みながら一休みしていると、さっきから一言も喋らず黙々と食べていた飾霧が話しかけてきた。
「もう食べないのかしら?」
「そうだな。もうお腹いっぱいだしな」
本当はお腹いっぱいというより気持ち悪いんだけどね。
「こんなに美味しいのに勿体無いわね」
どこか寂しそうな表情をする飾霧が妙に可愛かったので、恥ずかしさのあまり目を背けて、
「お、俺の分まで飾霧様が食ってるから問題ないだろ」
「そうね。頑張るわ」
「ああ、頼んだ」
「……取りに行ってくるわ」
宝石のような瞳をキラキラさせ、本当に頑張りそうだ。にしても、飾霧ってこんな表情する子だったっけ? スイーツ恐るべし。
新たなスイーツを求め旅立つ飾霧は、いつもより楽しそうで心なしかワクワクしてる感じだ。その姿を見ながらコーヒーを飲む。
これやっぱりデートなんじゃ?
ふと脳裏に過った言葉に顔が熱くなる。それを察知したかのように飾霧が戻ってきた。
「どうかしたのかしら? 顔が赤いわね」
「あ、あー。少し暑くてな。それにしても早かったな」
「チョコレートフォンデュが混んでいたからケーキだけにしたのよ」
「そ、そう」
ケーキを一口食べて、しみじみと言う。
「それにしても美味しいわね」
「そうか、それはなによりだ」
会話が終わり、なにも食べていないからか気まずさを感じた俺は、なにか話題はないのかと考えた。
すると、思いのほか聞きたい事が沢山あったので、これを機に質問することにした。
「いきなりなんだけど、飾霧様ってハーフなのか?」
これは会った時から気になっていたことだった。こいつからは日本人とは違う美しさを感じるんだ。
モンブランを食べていた飾霧がゆっくりと咀嚼してから飲み込む。可憐な動きでティーカップを口元に運び紅茶を味わう。
一息つくと、潤った唇を動かし始めた。
「ーー唐突ね。でも機嫌が良いから答えてあげる。私はクォーターよ。母方の叔母様がアイスランド人なの」
アイスランドかー。だからこいつはこんなに冷たいのか!
機嫌がいいらしいのでどんどん聞くとしよう。
「そうか、どおりで日本人離れしてるわけだ。それと、なんでこんな時期に転入してきたんだ。やっぱり理事長の娘だからか?」
「それもあるけれど、詳しくは秘密ね」
いつになく柔らかい表情に見惚れてしまいそうになる。
……秘密は誰にでもあるものだし、これ以上訊くのも野暮ってもんだ。
「ーーそっかあ。あと最後になんであんな自己紹介をしたのかだけ教えてくれ。あんなことしなければ人気者になれたし、友達とかも簡単にできたと思うんだが」
一番疑問に思っていたことを思い切って聞いてみた。
少しの沈黙の後に、無表情のまま飾霧は口を開いた。
「……あの時に言った通り、慣れ合うつもりがないの」
今は本人の言葉を信じて引き下がろう。深く踏み込み過ぎて後戻りできなくなるのもごめんだしな。
でも、彼女言葉を真に受けると疑問な点が一つある。なぜ俺とは関わるのかって事だ…………
腹を括った俺はゆっくりと口を開いた。
「俺は、いいのか?」
その問いに答えるようにして飾霧は瞳を向ける。真っ直ぐ見据えたまま唇を動かし始める。
「ーー貴方は私の奴隷だもの」
冷たくて甘いソフトクリームのように微笑む彼女は天使に見え、高鳴る胸を抑えられずにはいられなかった。
俺の心は奪われてしまったのだろうか? パニックになりすぎて誰かに聞いてみたい。その心を落ち着かせるようにして、ツッコミをいれた。
「ま、ままままだですけど」
「その通りね。ーー次こそはチョコレートフォンデュをしてくるわ」
「おう」
まの連打を気にもしないのが飾霧だ。
先程持ってきたケーキを完食した彼女は、席を立つと妖精のように可憐で軽やかな動きのままチョコレートフォンデュコーナーへと消えていった。
その姿を見ながらコーヒー啜る。
「本当に甘いものが好きなんだな」




