モテモテ17
「疲れた~」
俺は今、みんな大好き女神がトレードマークのカフェに来ている。
慣れない買い物で疲弊した俺はだらしなくテーブルに突っ伏していた。一通り買い物が終わり休憩している最中である。
まぁ、終わったと言っても、私服意外を買い終えたにすぎない。
ああだこうだ愚痴を言われながらも、ベージュのカーディガン、茶色のベルトと香水を買った。買った物がお洒落なのかはさっぱりわからない。ユ〇クロと変わらない気がするのは俺だけなのだろうか、甚だ疑問ではある。
今のは決してユ○クロをディスった訳ではないからね。安いのにあのクオリティーはすごいと思う。そもそも俺は普段ユ○クロにしか着ないから。
飾霧はというと、トイレに行っている。
ようやく一人になれた。あいつと居ると周りの人からやたら視線を浴びるので、精神力が削られる。
この店内の落ち着いた雰囲気に癒されつつだらだらと羽を伸ばすしているのだが、場所も場所なのでもうそろそろ突っ伏すのはこの辺にーー
「邪魔」
「ーーすまん」
見上げたら口の悪い天使がいた。
身体を起こして謝罪をしたが、飾霧は俺には目もくれずスッと華麗な仕草で椅子へと腰を下す。
「これから私服を買いに行くつもりだったのだけれど、そのセンスなら問題ないと判断したから今日はこれで解散するわ」
「えっ! 買いに行きましょうよ」
買いに行かないのは困る。なんたってこれは涼太のだからな。
「いいと言ってるのに、なぜ?」
「なぜって…………飾霧様の実力を見せてもらうためにだ」
しどろもどろになって考え出した答えがこれだよ。酷いもんだろ?
「私の実力?」
飾霧は「いい度胸ね。覚悟はいいかしら?」と今にも言いそうだ。しかし引くわけは行かない。ここはあえて強気に出る。
「そうだ」
「いいわ。その安い挑発に乗ってあげる」
飾霧はどこか嬉しそうな表情をする。それを見て俺は安堵した。
「流石。飾霧様」
「そうと決まれば行くわよ」
「いや、もう少し休みましょう」
やる気スイッチが入ってしまった飾霧に対して、俺はまだ全然回復していない。
誰か俺のやる気スイッチ押してくれ。
「特別に三分だけ待ってあげるわ」
「そんな少しじゃカップラーメンしか作れんわ!」
あとはウルトラマンだな。胸の辺りがピコンピコンなるな。
「そのカップラーメンという物は知っているのだけれど、あれは美味しいのかしら?」
「食べたことないのか?」
「ないわね」
まさかカップラーメンに食いつくとは、やはりお嬢様はそういうものとは無縁なんだな。あんなにリーズナブルで美味しいもんは中々ない。ビバ添加物!
「もったいないなー。あんなにうまいのに」
「そんなに美味しいの?」
「ちょっと言い過ぎたけど、たまーにすごく食べたくなる時がある」
飾霧が見たこともないキラキラした瞳を向けてきたので、嘘はいけないと思い正直に答えた。
「そう。今度食べてみようかしら」
「それなら今度の昼一緒にーー」
「無理」
「……そうですか」
飾霧は俺の言葉を遮り即答。高校生クイズ王の早押しより早かったわ。俺の事どんだけ嫌なんだよ。
悲しい気持ちになっている俺などお構いなしに、三分経過したので服屋へ向かうことになった。
数分歩くと、俺は入ったこともないようなお洒落な洋服店に着いた。
「ーー私に任せて貴方は適当に待ってなさい」
「おう。頼んだ」
適当に待ってろって言われてもな……まぁ、服屋だし服でも見ながら時間を潰すか。
ふむふむこのTシャツは三千円か、中々リーズナブルと言いたいところではあるが、全然リーズナブルじゃない。
どうしてこんな何書いてあるんだからわからないペラペラが三千円もするんだよ。こんなの買うんだったらゲームとか買いたいんだけど?
本当にモテるのって金使うのな。近いうちにバイト始めなきゃいけなくなりそうな予感がする。
そういや、東京のどっかで涼太バイトしてるんだよな。やはりイケメンは都会でバイトしなくてはいけない。そんな縛りみたいなのがあるのかもしれない。とか意味もないことを思いながら服を見ていると、飾霧が近づいてきたので逃げるか迷った。
だって、えげつない量の服をかごに入れてるんだもの。
「これを試着しなさい」
「あの……すごい多いんですけど」
「貴方みたいな……似合うかは着てみないことにはわからないわ」
「今なにかを言おうとしてやめましたよね」
「私の気遣いよ」
「その気遣いが俺を深く傷つけた」
「いいから着てきなさい」
「はい」
どうせ俺に断る権利などは一切ないので着ることにした。
試着室に入り着替えをしようとかごを漁ると、飾霧様の優しさなのか上下セットでかごの中に入っていた。そのおかげでどれを着ればいいか迷わずに済んだ。
それにしてもなぜ俺のような男がファッションショーをしなきゃならないんだよ。こういうのは女の子がやるもんだと相場が決まってるはずなのに。
心の中で愚痴りつつも一着目を着て外へ。
「どうだ?」
グレーのトップスに黒の七分袖のジャケットを羽織っている。ズボンは黒のスキニーだった。
「普通ね。次」
「普通って。飾霧様が選んだんですよね」
「そうよ。勘違いしてるようだから言わせてもらうけど、貴方を普通まで押し上げる事自体ふつうなら不可能なの。でも私は可能にした。もはや神業ね」
「人を傷つける天才かよ。しかも自分で神業って」
「褒めてくれてありがとう。それは事実だもの」
「もういいです」
俺はカーテンを閉めた後に大きくため息を吐いた。
服はまだまだ沢山ある。本当なら試着は俺じゃなくて女の子にやってもらうはずだったんだ。
俺に主人公としての力がないばっかりにこんなことになってしまった。
だが、まだ諦めた訳じゃない。近いうちに必ず女の子のファッションショーを実現させてやる。
そのためには力をつけなければ、今は全力で俺のファッションショーをするしかない。
それから十着以上も試着して、結局最初に着た服を買った。
俺の苦労はなんだったんだと、心も財布も寂しくなった。




