モテモテ16
殆ど無言のまま後を付けるような形になっている。はたから見たらストーカーだろう。
近寄り過ぎて気分を損ねるのもあれなので、この距離を保っている。
遠目から見ているせいなのか、周りの男性の視線が飾霧集中しているのがわかる。あいつも気付いてはいるだろうが顔色一つ変えずに堂々としている。
俺だったら耐えられずにトイレに逃げ込んでしまうだろう。そもそも注目なんてされませんけどね。
飾霧様が眉を顰めてこちらを向いておられるぞ。機嫌が優れないのだろうか? 少し心配ではある。
「背後霊みたいに歩かないでもらえる? 通報されるわよ」
「あはは。それはすまない事をした」
後頭部を掻きつつ空笑いをするのがやっとだぞ。周りの視線が一気に俺に集中したぞ。さっきの心の声が神様に届いたのかな?
いらない気遣い感謝致す。けっ!
「いつもよりも様子がおかしいわね」
「いつもよりは余計です」
「そこが大事なのよ」
「大事じゃねぇだろ」
「いつもの調子が出てきたみたいね」
「端っからいつも通りだっつーの」
「そう」
本当にいつもの調子が戻って来た。そして思い出した。
私服の件に関してノーコメントだったことに。
到着したのは複合施設。土曜日ということもあり混んでいるが、俺は人生二回目だから一人テンションが上がっている。横で澄ましている女など知ったことか、それにしてもまずは何を買うんだろう。
「飾霧様。まずは何を買うのでしょうか?」
「カーディガンとベルトよ」
予想と違った。まずは私服を買ってそれに着替えろとか言われると思ってた。涼太には悪いけど聞いてみよう。
「私服からじゃないんですか?」
「違うわよ。どうしてかしら?」
「いや、ダサイ格好のまま一緒に歩くのとか嫌かなって」
「その格好なら平気よ。まさか貴方にそんなセンスがあるなんて奇跡ね」
「そ、それほどでも」
涼太さっきはごめん。お前はやっぱり最強だわ。
「いいから、行くわよ」
「はい」
少し歩いて飾霧が足を止めた場所は高級感溢れるお店。いかにも高そうだ。
「ここよ」
「なんかすごい高そうな感じが……」
「モテたいのならいい物を着なさい」
「そんなもんですかね」
「そうよ」
そう言い残してスタスタと中に入ってしまった。行くしかないと重い足取りで中へ。
店内の床は白い大理石で埋め尽くされ、クラシックのBGMが耳に響く。男性の店員はスーツピシッと着こなしている。「ココッテオレガキチャダメナトコロ」とか片言になりそうなくらい場違いな場所。
「そもそも高校生はこんなところ来ないだろ」
独り言を呟きながら店内を見回す。
飾霧に文句を言う前に値段は確認しておこうと、カーディガンの値段を見たら、思わず「ガーディアン!」と心の声が漏れてしまい口を押えた。
--二万円なんですけど? このペラペラが二万て馬鹿なのかよ。一旦退避だ。
飾霧を見つけ出し、小声でできるだけ強気に発した。
「ここ高すぎる! 金が圧倒的に足りない。出るぞ!」
「買い物をすると言ったのに、お金を持ってこなかったのかしら?」
「違うわ! 持ってきたよ全財産! それでもきつい」
「そんなことがありえるの?」
珍しい生物にでも出くわしたような表情をしているが、それはおめぇだ。
「おめぇが普通じゃないんだよ」
「おめぇ?」
心の声が実体化するとは思わなんだ。目が怖いから兎に角言い直そう。
「飾霧様が普通じゃないんです」
「私が基準に回っているのにそれはないわね」
その方がねぇーわ!
「わかった。もうそれでいいから。一旦出よう」
「仕方ないわね」
飾霧は呆れた顔をしつつも外に出てくれたので助かった。笑顔で挨拶してくれた店員には悪いが、無理なものは無理なんだ。
「飾霧様。頼むから全部で三万以内でお願いします」
手を合わせて切実なお願い。母ちゃんから貰った一万と、俺のお年玉の余りだぞ。それ即ち、俺の全財産。
「それだけ?」
「それだけなの!」
俺の全財産をそれだけとな? よし! 帰る!
「仕方ないわね。付いてきなさい」
渾身の訴えが通じたのか違う店に向かうようだ。危なく帰るところだったぜ。




