モテモテ13
放課後。
離れの二階にある部屋で、飾霧は優雅にすらっと伸びた足を組みながらソファに座っている。
テーブルには高級感のあるティーカップとポットが置かれていた。もちろんティーカップは一つだ。自分で淹れた紅茶を飲みながらゆっくりとした時間を送っている。
窓際、量産型である教室の椅子に座っている俺は、その光景を見て物申す。
「何を一人で優雅な一時送ってるんだよ! 俺の存在忘れてんだろ!」
「うるさいわね。ここは動物園ではないのだけれど」
「そうだよ。動物園じゃない! 俺は人間!」
「あら、こんにちは。インゲンさん」
「インゲンじゃない! 人間! 絶対ワザとだろ」
「それはさて置き、そろそろ始めるわよ」
こいつは不思議の国から生まれた。不思議の国のノアに違いない。何を言っても無駄みたいだ。
「はいはい」
「明日は土曜日。特別な作戦があるわ」
「休みもやるのか?」
何をやるんだろう。それにしても休みまで手伝ってくれるとは、やる気だけはあるんだよな。
「当然よ。作戦名は、お洒落男子で女子の好感度上げちゃおう」
もう『女子の好感度上げちゃおう』には触れないことにしよう。俺も地味にハマってきた。
「お洒落って、学校はみんな制服だから同じなんじゃ」
「馬鹿ね。同じと言っても買うものはあるのよ」
「何を買うんだよ」
「まずは、今の時期だとカーディガン。後はその小汚いベルト。それと香水かしらね」
「なんとなくわかった」
涼太がいつも着てるからカーディガンは知ってる。ベルトの件に関しては認めざるを得ない。なんせ親父のお下がりだからな。香水に限っては訳がわからないが、必要なのだろう。
「これはあくまでも学校に必要な物。なので私服も買いに行くわ。後、その主旨不明な髪型もどうにかしてもらうから」
「私服ぐらい持ってる。しかもこの髪型は中一の時から今まで変えずにきた俺のトレードマークなんだぞ」
そう。このトサカヘアーは俺のお気に入りだ。
中学生の時は、「それイカすな」とかよく言れたっけ。高校になったら、「個性的だね」って褒められた事まである。そう考えるとかなり好印象だな。
それでも涼太だけは変えた方がいいと、口を酸っぱくして言われたのを覚えている。何故だろう?
「頭が悪いわね。貴方が持っている私服はダサいから買いに行くの。わかる? それに、それをトレードマークとか言ってるけれど、その髪は切らないと死ぬわよ」
「見てもない俺の私服がダサいとなぜ言い切れる。あと、ちゃっかり死の宣告をするな」
にしても俺の髪型に対しての評価が酷い。今すぐ全国のトサカに謝れ。
「ダサいのは顔を見ればわかるもの。あと切るのは絶対。今のままじゃ恥ずかしくて一緒に外も歩けないわ」
「外を歩くって?」
この際服がダサいのは置いておくとして、歩くって何? もしかしてあれ?
「そうよ。明日はお洒落アイテムを買いに行くわ。その前に髪を切っておきなさい」
やっぱりあれか!
「これってデートーー」
「違う。お散歩よ」
「俺は犬か!」
速攻で否定された。それにまた犬かよ。楽しみだワン!
「そうよ。髪はここで切りなさい。頼んであるから」
渡されたパンフレットを読むと、渋谷の美容院だった。
「ここって高いんじゃないのか? そもそも切るのは確定してたのかよ」
もう俺が犬だってことについては諦めた。
「私は絶対なの。貴方にしては高いかも知れないわね」
「もう切るのはモテるためだからいいとしても、ここっていくらなんだ」
パンフレットを見るも値段が書いてないので尋ねると、瞬時に答えが返ってきた。
「一万円よ」
「はい〜?」
値段があまりにも高過ぎて、オコジョみたいに大首を傾げちまった。
「一万円よ」
「聞こえてるわ」
「疑問系だから答えてあげたの」
「ありがとう。ーーじゃなくて、無理だって。そんな金……あるにはあるけど……」
今まで千円カットで生きてきた俺からすると高すぎる。
できることなら千円で切りたい。いつも完璧なトサカに仕上げてくれた床屋のおっちゃんに会いたい。
「大丈夫よ。そんな事もあろうかと半額にしてあるわ」
その気遣いは普通に嬉しんだが、普段の五倍か……
「十分高いんだが……」
「何か言ったかしら?」
「いえ。ありがとうございます」
半額にしてもらったので一般常識として礼は言っておく。睨まれたからでは決してない。
「分かればいいのよ。美容院は十時に予約してあるから遅れないように」
「わかった。切り終えたらどうすればいい?」
「渋谷ハチ公前。十二時に集合」
「了解」
どうせもう切るという選択肢しかないので、めんどくさいから反論はしないことにした。そろそろ髪も切る予定だったし、このトサカと別れるのは少し寂しが仕方ない。
ーーおっちゃん済まない。
「これは一応連絡先よ」
投げられたメモ用紙を犬のように華麗にキャッチ。
「こ、これは貴女様のでございますか」
あまりの嬉しさに変な口調にーーって別に飾霧の連絡先なんて必要ないんだからね!
明日の為には持っていた方がよさそうだし、仕方ないから貰っといてやるか。へへへ。
「ええ。百万円の価値はあるわ。大事にしなさい」
「ははー」
高すぎるわ。自分を過大評価しすぎだろ。へへへ。
「では明日。ーー遅刻したら死ぬわよ」
「わかりました」
ソファから立ち上がり、「帰るわ」と一言。艶やかな銀髪を揺らしながら部屋を後にした。
そのまま放置されているティーセット一式は、もしかしなくても俺が片付けなければならないのだろうな。
無事に今日の作戦会議は終わった。一人残された俺は机の上を片付けながら顔を綻ばせていた。
「女子の連絡先か……」
まさか、こんなにも早く女子の連絡先をゲット出来るなんて思わなかった。これだけでも十二分に満足なのに、明日は女の子と二人でお出かけと来たもんだ。
色々とうまくいき過ぎて嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか。
……嫌な予感に限って当たったりするんだよな。これをテンプレと言う。
だが、今の俺の勢いならそのテンプレをも打ち破れそうな気がするんだ。
明日が楽しみでしょうがないぜ。




