モテモテ11
後ろからの突然な声に驚きつつも振り向いた。
「っ⁉ ーー飾霧様なぜここに」
驚いた後、神妙な様子で尋ねると、飾霧はどこか楽しげな様子で答えた。
「離れに向かう途中、女生徒四人が血相をかいて走っていったのが見えたからその方向に足を運んだの。そうしたら、面白いものを見つけたから観察していたのよ」
「誰がアサガオやねん! 誰が昆虫やねん!」
「喋るなんて希少種かしら」
「違うわ」
そんな好奇心旺盛なタイプだったなんて驚きだわ。それより観察って本当に失礼な野郎だ。
「それよりどういうつもりかしら、放課後いつでも離れに居るというのは」
氷の女王モード発動!
「あ、あれはなんというか、言葉のあやで」
「知らない言葉を使わない方がいいわよ。お馬鹿さん」
全然知ってるんですけど、お馬鹿さん!
「そうですね。どうせ馬鹿ですよ」
「それより、何故あんな約束をしたのかしら。想像で九割はわかったのだけれど」
「ならもういいでしょ」
「いやよ。残りの一割がわからないと、気持ち悪くて夜も眠れないもの」
そういうタイプね。見たまんまだわ。なにも驚かなかったわ。
「そうですか、なら言いますよ」
「時間を無駄に浪費したくないから歩きながら話して頂戴」
「わかりました」
俺は前からあの子を知っていたこと、今起きたことを詳細に話した。話し終える頃にはもう部屋についていた。
いつもの定位置で話が進む。
「話はわかったけれど、どういう経緯を辿ればここに呼んでいいと言うことになるのかしら?」
「それはそうなんだが、いきなり連絡先とか聞けないし、教室とかも微妙だし、ここが一番いいと思ったんですぅ」
話聞いてそれかよ。鬼だな! 隠れ美少女がいじめられてるんだぞ! 力にならなくてどうするよ。
「そう。別に構わないけれど」
「えっ? いいのか? やっぱり飾霧いいやつじゃん」
「急に慣れ慣れしくなったわね。お座り」
「はい?」
なぜにそちらに食いつくの? 褒めた方に食いついてほしいんですが、切実に。
しかもお座りとか、俺は犬じゃないワン!
飾霧は立ち上がり腕を組むと、俺を弄ぶかのような視線を向け口を開く。
「やらないならここは使わせないわ」
「鬼畜め」
仕方ないか、ここを使うためだし我慢しよう。甘んじて受け入れるワン!
「嫌ならいいのよ」
「やればいいんだろ。やれば」
「そう。やればいいのよ」
俺は悔しそうな表情を作り、木の床にゆっくりと正座した。
「これでいいか?」
この位置は最高だ。俺は絶対領域を見るためならなんだってやるんだよ! あれ、違ったっけ?
「もっと犬みたいにできないのかしら」
「できなくはないが」
俺を見下しやがって、目にもの見せてやる。風林火山。林の力をな。心を静め、微動だにしない身体。心の目で見るのじゃ。はああああああああッ! 多分黒だな。
「なら早く、犬のように地面に平伏し頭を垂れなさい」
しょうがなく犬みたいにしゃがんで頭を下げた。
お前は気づいてないだろうが、太ももならぬ細ももはもう俺の餌食になっている。その絶対領域は俺のものだ。それと、もう少しで男のロマンが拝めそうだ……
ーーぐへっ。ぐへへへっ。
「これでいいか」
「及第点ね。なら次はそのまま三回回ってワンと吠えなさい」
三回回った風圧でスカート捲ると決めた。
「仕方ない」
「物分かりがいいのね」
「まあな」
それにしてもいい眺めだ。もうそろそろパンチラとかあってもいい気がする。ラブコメの定番。
だが、俺程度のモブにラブコメの神様は微笑まない。それなら、自分の力でやるしかない。神がその気なら、俺は自分の力で勝ち取るまでだ。
ーーねだるな勝ち取れ! さすれば与えられん!
俺が三回回ってワンと吠えた瞬間----何も見えなかった。早く回りすぎたせいで、頭がクラクラしていたからだ。
く、くっそ! なんで、なんでなんだよおおおおおおおおッ!!!
「やればできるじゃない。ご褒美をあげるわ」
ふらふらとしていたのに、その言葉を聞いた瞬間。飾霧に向き直り目を輝せた。
「ご、ご褒美とな」
驚きのあまり語尾が「とな」になっちまったぜ。やっぱりラブコメの神様っているんだな。
きっと今までのは全て照れ隠しで、これからやっとデレてくれるんだな。楽しみ過ぎてヨダレが出そう。じゅるり。
「こんなこともあろうかと用意しておいたわ」
ふふふ、と邪悪な笑みを浮かべつつ出されたのは高級そうなドッグフードだった。
それを見て、こめかみをヒクつかせながら歯を食いしばる。
「ーー食うわけないだろ。他のにしてくれ」
本当は怒りに身を任せ、「ーーいや待て、いくら高級でも俺は人間だし、食べるわけねぇーだろ。いい加減にしないと、その柔らかそうな胸を今すぐに揉みほぐすぞ!」って言うつもりだったけどやめた。
俺にはまだ人としてのモラルが残されていたみたいだワン!
「敬語」
「他に何か下さいませでやがる!」
敬語に直すのはお手の物だ。ムカつくぜ。
「全く贅沢な犬ね。仕方ないからこれをあげるわーー」
飾霧がポケットから出したものを俺の前にスッと落とす。それを両手で華麗にキャッチ。手を開いてみるとそこにあったのは鍵だった。
これってまさか……。
「ここの鍵か?」
「そうよ。ご褒美になったかしら」
「それは勿論なったとも。飾霧様はやはりいいお方だ」
本当にありがとう! 今までの行いを半分は許すことにするよ。
「当然のことを言われても全く嬉しくないわね。それより今日も特訓をするわよ」
特訓と聞いて思い出した。
「そうだ。さっきここに来る途中、女子からの熱い視線が凄かったんだよ。きっと爽やか作戦の効果だな」
「よかったわね。貴方の勘違いじゃないことを祈るわ」
ーーこの俺が勘違いなんてするわけないだろ!
そしてここから二時間にも及ぶ爽やか特訓が行われたのだった。




