モテモテ10
離れの部屋に着き。胸の高鳴りが収まらぬままドアを勢いよく開ける。
「飾霧聞いてくれーー」
……あれ? 誰もいない。見渡すほど広くはないので居ないことはすぐにわかった。
でも、外も中も鍵は開いていた。おかしいな絶対居ると思ったのに、しょうがないから少し待つか。
それにしても今すぐこの気持ちを誰かに伝えたかったのに、残念だ。
あいつの作戦だからお礼も言いたかったのに。まぁ、そのうち帰って来るだろう。
鞄を置き、いつもの椅子に腰を下ろして待つことにする。
「ーーまだか」
もう十五分か遅いな。俺待つの苦手なんだよな。でも入れ違いとかやだしもう少しだけ待とう。
「ーーおせぇ」
三十分が経過した。待つより探した方がよかったかと、後悔してきた。でも今行って入れ違いになったら嫌だし、どうするかな。
ーー仕方ないから行くか。
これ以上待つよりはいいはずだ。俺は猪突猛進タイプだしな。いくぜぇ。部屋を出て、リズミカルな足取りで外まで行く。
「空気がうまい! それじゃあ、まずはどこから探そう……教室だな」
それしか浮かばなかったので競歩ではなく走る。外だしここなら全力で走れる。今なら何かを超えられる気がするんだ。
「うおおおおお!」
大きく手を振り少し走ると人影を発見した。場所は川の字に並ぶ校舎の真ん中。因みに一番左が離れだ。
人目のつかない校舎裏。こんなところで秘密の会議かと興味が沸いてきた。みんな女子だし、悪いと思いながらもヒタヒタと足音をたてないように近づき壁からチラリッ。
みんな除きは絶対ダメだぞ~。
「調子乗んなよっ」
「ほんと、マジでうざいんだけど」
「てか、早く金出せよ」
「ほんとそれ」
鮮明に聞こえてしまった。無理もないか、これは神が俺に与えたもう一つの力。耳。ってのは嘘であいつらの声が大きいだけ。
それより何これ、ドラマや漫画では見たことはあるんですけど、リアルで出くわすとは思わなかった。
いじめられてる子には悪いけど見なかったふりーー
「おい。てめぇら、何やってんだ」
何やってんのは俺だけどね。でもさ、爽やかボーイの称号を持ってる俺は見過ごせないわけよ。
「み、見つかった。逃げるよ」
「やっば」
「ほら、早く」
「待ってよ」
見つかったことに慌てた四人は足早に逃げていった。一人座り込む少女には見覚えがある。
この子はいつもパンをいっぱい買っている、隠れ美少女! いい匂いを添えて。
「ったく。あんなビビりがいじめとかよくやるな」
俺は愚痴をこぼしながら競歩ではなく歩いてその子に近づいた。鞄の中身を焦って拾う少女に声をかけた。
「こ、これ。どうぞ」
俺は爽やかに拾ったノートを渡す。
「あ、ありがとうございます」
「き、気にしないでくれ」
「……はい」
やはり普通の女子と話すのは、まだ早いようだ。
一緒に散らかっている中身を拾う。全て拾い終えると、彼女はぺこっとお辞儀をし、その場を後にしようとした。
彼女の腕を反射的に掴んでしまう。
「ひっ!」
びっくりしたのか素っ頓狂な声を上げる彼女。掴んだ手をすぐに放すと、俺は爽やかに声をかけた。
「ご、ごめん。ちょっとだけ話さない?」
「は、はい」
緊張しつつも小さく頷く彼女に俺は尋ねる。
「名前、聞いてもいいかな?」
「……はい。ーー黒笠雫と言います」
俯き気味で暗い彼女を、なんとかしようとできるだけ明るく爽やかに振る舞う。
「黒笠雫か、いい名前だね。俺は茂木直。よろしく」
「……ありがとうです。よろしくです」
「黒笠さんはパン好きなの?」
「……そんなに」
ミスった。
パンは食べるために買ってるんじゃなくて、買いに行かされてるんだけだよな。誰がどう見てもそうなのに、なぜ気づかなかったんだ。朝に続いてまたもや凡ミス。なんという厄日だ。
そんなことよりなんとか励まさないと。
「そっかあそっかあ。まぁあれだな。ここで会ったのも何かの縁だし、困ったことがあったら言ってよ」
「……別に、……ないです」
俯き気味のせいで長い前髪が暖簾みたいになってて可愛い顔が見えない。
くっそー。どうにか前を向かせるぞ!
「そっかあ。でももし気が変わったら、離れにある建物に来てよ。放課後なら毎日いるからさ」
「……はい」
少し上を向いたぞ! もうひと押し!
「ほんと、いつでもいいから」
「……はい」
やった! 前を向いたぞ! だが大きな黒縁眼鏡が邪魔だった。これ以上は無駄か、潮時だな。
「引き止めて悪かったね」
「……いえ。ではこれで失礼します」
彼女は駆け足で去って行った。余計なことをしちゃったかな。まぁ、いつもの事だから考えるのはやめよう。
ーーそうだ飾霧を探さないと。すっかり忘れてた。
「茂木直」
後方から透き通るような冷たい声が聞こえた。




