モテモテ9
落ち込んだ甲斐があった。
まさか俺がカレーの次に好きな焼きそばパンを奢ってくれるなんてな。
持つべきはイケメンの親友だな。
「お前はそうじゃないとな。それで何かあったのか?」
明るい表情を一転させ心配そうに尋ねる涼太に、俺は後頭部を掻きつつバツが悪そうに言う。
「いや……俺の作り笑いがな……」
「まさか、誰かに見せたのか? あの狂気じみた顔を」
「なんでお前が知ってんだよ。てか知ってんなら教えとけよ」
神妙な面持ちの涼太に、俺は怪訝になりつつ口を尖らせた。
「いや、直ってほぼ作り笑いとかしないだろ」
「なんでわかるんだよ」
お前は何でも知ってんのか! 知らないことまで知ってんのか!
「そりゃ、昔から知ってるしな」
「そんなもんなのか」
「そんなもんだ。それじゃ、席行くわ」
「おう」
涼太は自分の席に向かった。それにしても俺の知らないことまで知ってるとは、流石親友と言ったところか。
俺の後ろにクラスメイトの視線が集中し、クラスは静まり返った。気になり振り向くと、絹のような銀髪を揺らし華麗に歩く飾霧と目が合う。
「ーー飾霧。おはよう」
何も言わないのもあれかと思い挨拶をすると、飾霧は席に着いた後に淡々と言う。
「私に爽やかに挨拶しても無駄よ。あと様を付けなさい」
「わかりました飾霧様!」
「無駄に様を強調しないでもらえるかしら。朝からとても不愉快だわ」
「それは申し訳ございませんでしたねぇ!」
様にうるさいから強調してやったのにこの言い草だよ。勘弁してほしい。
「それで、上手くいっているの?」
実際のところ全然上手くいってない。
これは正直に答えた方がいいのか、誤魔化した方がいいのか、悩ましいな。俺の凡ミスで失敗したのは明白だ。ここは正直に答えるべきだな。
「……最初は、よかったんだけど……」
「だけどなに?」
言いづらそうにしている俺を尻目に催促する飾霧。
「ーーうっかり、作り笑いをしてしまいました」
「失敗したということね。無様ね」
苦笑いを浮かべる俺に対して、飾霧は呆れた様子で悟ったかのような言葉を言い捨てた。
「返す言葉もありません」
「誰にでも失敗はあるものよ。今週はこのまま続けなさい」
「は、はい」
あまりに優しい言葉が返ってくるものだから驚いた。
「よろしい」
「では、行ってきます」
飾霧の優しさに触れ、やる気が戻った俺は席を後にした。爽やかボーイのままクラスメイトに挨拶を披露しまくる。
爽やかを振り撒くのは気持ちがいいぜ。このままラストまで振り撒くぜ。
時は過ぎ去り昼休み。
マジで頑張った。爽やかボーイとしてできるだけの気遣いをしたつもりだ。
何をしたかと言うと、あの笑顔を封印して、休み時間にクラスの女子にお菓子を配った。以上。
清潔感溢れる爽やかさは関係ない気がしたが、みんなは笑顔で貰ってくれた。お菓子は世界を救うかも知れない。
当然のことだがギャルグループには渡せなかった。だって近寄らないでって言われたし、俺、豆腐メンタルだから。
なぜクラスの女子だけかと言うと、内側から攻めて、どんどん侵食するのが俺の作戦だ。別にビビってる訳じゃないんだからね。
隣の飾霧はというと、昨日に引き続き今日も昼休みになるや否や教室からいなくなった。
クラスに嫌われてるというよりかは、怖がられているようだ。皆俺と同じ気持ちらしい。
考えるのはこの辺にして、涼太と昼飯を食いに行くか。
自分の席を立ち、涼太を爽やかに呼ぶ。
「涼太。行くぞ」
「今行く」
「焼きそばパン忘れんなよ」
「ああ、わかってる」
二人で教室を後にし、たわいもない話をしながら階段を降りると、昨日パンを拾った女子と目が合う。
昨日と変わらず暗い雰囲気を感じるが、美女だということはわかっている。
今日もパンが沢山入った袋を二つ持っている。こっちに気付いたのか、ぺこっとお辞儀をするので俺達も軽めのお辞儀で返すと、彼女はすぐに駆けていった。
今日もシャンプーの匂いが香る。ーーってそんな事考えてる場合だ。
うーん。それにしてもいい匂いだ。
そうだ! この思いを涼太と共有しよう。
「あの子って昨日のだよな。いい匂いするよな」
「……」
返事がない涼太は、どこか上の空だったので肩を掴む。
「おい。どうした」
「ああ、なんだっけ」
珍しく間の抜けた声だった。イケメンにも悩み事があるのかと不思議に思ったが、人間だし悩み事の一つや二つあるよな。俺は一〇八個あるけど……。
「ぼけっとしやがって、なんか考え事かよ」
「ちょっとな」
「ほーん。お前にしては珍しいな。俺にできることなら言えよな」
「ああ、たいしたことじゃないから気にしないでくれ」
いつものように戻ったのはいいが、なんか釈然としない。
まぁ、こいつがいいって言うなら無理に聞かない。それが親友ってもんだからな。
「そうか、ならいいけどな」
爽やかに「よし」と一言。走り出す涼太。なんだこいつと思いながらも走るよね。腹ぺコだし、それにしても走り方まで爽やかだな。
しょうがねぇから爽やかボーイの称号はお前にくれてやるよ。
あっという間に後少しでHRが終わる最高の瞬間。
昼を食い過ぎて、今も腹がいっぱいだ。
焼きそばパンとカレー特盛は調子に乗ったとしか言いようがない。
今の俺に清潔感及び、爽やかさは全くない。だが心配するな。
トイレにさえ行けば解放される。はよ。頼む。高島先生お願い。
腹が痛いので説明は簡単に済ませる。
声が大きい四十代国語の教師。ネクタイのセンスは皆無。以上。
「そんじゃ終わり。解散!」
その声と同時に教室を出ると廊下をダッシュ! 高島先生よりも早く出たので注意はされない。
本当は廊下を走るのは禁止だけど便意の時はいいって、じっちゃんが言ってた。
俺はなんとかトイレに駆け込み個室へ。開いててよかった。
たまに神のいたずらなのか、こういう時に限って空いてないときあるよね。
その時の絶望感たるや、お年玉の袋がやけに薄くてまさかこれは樋口さんですか? と思ったら野口さんだった時くらいだよ。稀に諭吉の時もあるが、昇天しかける。
例えはクソだったけど、クソは出たし行くとするか。俺は個室から出て綺麗に手を洗うと、競歩で教室へと向かった。
教室に着くと、もう半分以上のクラスメイトはいなくなっていた。それもそうだろう。二年と言ったら部活だしな。
大会に向け、やる気を漲らせてる奴らがわんさかいるのは当然のことだ。
俺には関係ない話だけど、少し羨ましいとか思ったりもする。
ただ、俺にはもっと大事な使命がある。モテモテになるという使命が。
今日も特訓をするからと、涼太には伝えてあるからいないとして、飾霧は?
「いねぇ……」
周りを見渡すが気配はない。あいつは魔王クラスなのでオーラが違う。居れば一瞬で気付くのだが、なんでいないんだよ。
考えられるのは一つしかない。先に離れに向かったんだろう。それなら善は急げだ今からいくぜ。
教室を出て競歩にシフトチェンジ、このまま突き進むぜ。
競歩選手独特の歩き方で離れに向かっているのだが、さっきからすれ違う生徒から視線を感じる。
これは気のせいなのか? それとも爽やか効果なのか? 悩ましいが後者だろう。
今、溢れんばかりの爽やかオーラが俺から出てるに違いない。今日一日の成果か。
これは早く飾霧に伝えねば。それと涼太! 悪いが爽やかボーイの称号は返してもらうぜ。ひゃっほう!




