モテモテ101
「さっき問題があると言ったけれど、よく考えたらたいした問題ではないわね」
「そうなのか?」
「ええ。貴方が頑張ればいいだけの話だもの」
「別にモテる為に頑張るのはやぶさかではないというか、望むところだ」
「なら問題なさそうねーー」
飾霧は間を開けるといつもと変わらないテンションで、
「今回の作戦名は、四人目の女の子の好感度上げちゃおう」
そう言い切った。
作戦名に首を傾げずにはいられなかった。
「ん? 四人目って誰?」
「愚問ね。木崎由に決まっているわ」
「なんでここであいつが出てくるんだよ!」
まさかの人物名に取り乱さずにはいられない。
「そんなの決まっているでしょ。彼女が脈アリだからよ」
「はぁ? なに言ってんだ。そんな訳ないだろ。あいつはどこからどう見ても俺の事が嫌いだよ」
だってあいつは、黒笠を助ける時に俺と一悶着あった敵な訳だしな。
そもそもどうして知り合いでもない飾霧にそんな事がわかるのかが一番の疑問である。
「本当に馬鹿ね。こんな言葉を知っているかしら。嫌よ嫌やも?」
飾霧が期待の眼差しで見つめてくるので、
「何が言いたいんだよ」
と突き放す。
彼女は負けじと再度同じ言葉を口にする。
「嫌よ嫌よも?」
どんな言葉を欲しているのか分かってはいたが、言いたくなかった。
でも凄く見つめてくるし、答えないと後が怖そうなのでしぶしぶ答える事に。
「……好きのうち」
「よくできました。そういうことよ」
「どういう事だよ。意味不明だろ」
飾霧の満足そうな表情が少し腹立たしいし、その程度で納得できる訳もなかった。
聞き分けの悪い俺にやれやれとため息を吐く。
「……馬鹿な貴方でもわかるように言ってあげるわ。要するに彼女はツンデレよ」
「つ、ツンデレだとっ!」
「そうよ。あのツンデレよ」
まさか飾霧の口からツンデレという言葉が出てくるとは思わなかった。
それにツンデレって、あのツンデレだよな。
あんたバカぁ? でお馴染みのキャラクターが記憶に新しい。
彼女のような人間が現実に居るというのか?
アレは二次元の産物ではないのか……
「……本当に存在すると思ってるのかよ」
「ええ。ツンデレは実在する」
「その自信は何処から来るんだよ。実在するという根拠はあるのか?」
「あるわよ。実際に出くわした事があるもの」
「出くわすってモンスターじゃないんだから」
全くメルヘン少女はこれだから困るぜぇ。
「いいえ。ツンデレは極稀にしか出くわさないもの。そういう意味ではクリーチャーのようなものね」
「どんだけ希少なんだよ!」
「その希少な筈のツンデレが我が校に居る木崎由なの」
表情を見れば冗談を言って無いのだと読み取れるが、どうも信じられないので半信半疑で話を進める。
「わかった。仮に木崎がツンデレだとしよう。それでも俺に好意があるなんて事はわからないだろ。そもそも飾霧は木崎と共通点がないよな?」
「共通点がなくとも、貴方と居るところを数回ほど目撃しているもの。それだけで十分」
共通点どころか既に観察されていた。
「待てよ! いつ、どこで見てたんだよ」
「今はそんな些細な事はどうでもいいの」
どう考えても些細ではないと思うが、問い詰めてものらりくらりと逃げ切るに違いない。
だから、俺は今後の話をする事にした。
「それで俺はまず何をすればいい?」
「実は近々お祭りがあるの。それに木崎由を誘いなさい」
祭りという言葉に一瞬テンションが上がったものの。鼻で笑っていた。
「ーーこの俺が木崎を祭りデートに誘うだと? 冗談はよせ。あんな危険人物を誘うなんてごめんだぞ。取り扱いを間違えると直ぐにでも爆発しそうなんだ。もし誘ったとしたらどんな目に合うか分かったもんじゃない」
「今しがた望むところだとか、カッコつけていたわよね」
「ーーあれは……言ったというか、なんというか……」
「言ったわよね?」
飾霧の瞳と言葉の圧に押し潰されそうになりながら呟く。
「まさか、さっきの問題って……」
「そうよ。チキンな貴方が彼女を誘うこと自体が難しいというのが一番の問題だったの」
飾霧は俺という人間を思った以上に理解しているようで、だったらこの後の言葉も理解してもらえると思う。
「よくご存知で、だったらーー」
弱腰な声を遮り、
「諦めるのかしら? その程度の決意だったという事でいいのね」
と、失望した表情に冷たい声音だった。
そんな飾霧を見たからなのか、侮辱されたからなのか、わからないが俺の心に火をつけるには十分だった。
「いや、その程度なんかじゃねぇ。そんな簡単に諦められるような夢じゃねぇし、俺はモテる為ならこの命すら惜しくねぇよ!」
頭ではわかっていても止められなかった。
まんまと飾霧の策に乗せられてしまった事が悔しかったが、その反面清々しい気分にも苛まれていた。
今回はさすが俺を熟知しているだけの事はあると称賛を送ってやりたい。
「なら、やるしかないわね」
うっすらと微笑む飾霧に向かって勢いよく親指を立てた。
「だな。やるなら今しかねぇ」
「少しは男らしい面構えになったみたいね」
「ああ。漢、茂木直。必ずや木崎由をデートに誘ってみせるぜぇ!」
椅子から立ち上がり、日が落ち暗闇に包まれる空を見上げるのだった。




