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第8話 雨音の寝台
小修道院の客間は、寝台がひとつしかなかった。
「床で寝ます」
私が先に言うと、ミレイユは小さく首を振った。
「あなたは公爵でしょう」
「今は逃亡中の共犯者です」
その返事に、彼女が初めて少し笑った。ほんの短い笑みだったけれど、礼拝堂のステンドグラスより綺麗に見えた。
雨脚が強くなる。外では護衛と刺客の気配が何度かぶつかり合い、やがて静かになった。緊張が抜けないまま、私たちは同じ寝台の端と端に腰かける。
「あなたの親切は、生存のためですか」
ミレイユの問いは柔らかいのに、逃げ道がない。
「最初はそうでした」
「今は?」
私は視線を落とした。正直に言えば、軽蔑されるかもしれない。でもこの人には、もう嘘をつきたくなかった。
「今は、あなたが泣かずに済む世界にしたい」
ミレイユの指先が、そっと私の手に重なる。
「ずるい方ですね、レティシア」
「そうでしょうか」
「ええ。そんな顔で本音を言うなんて」
夜更け、彼女は私の肩に額を預けた。祈りの香が近い。互いの鼓動を確かめるように抱き寄せ合い、やがて唇が触れた。静かな、けれど逃げ場のない熱を残す口づけだった。
何をどこまで交わしたのかを、言葉で切り分ける必要はないのだと思った。必要だったのは、この夜が彼女の意思で選ばれたことだけだ。
朝まで、雨は止まなかった。




