第6話 聖女は私を嫌っている
王城を出た翌日、次の名前が鏡に浮かんだ。
【第二対象: 聖女ミレイユ・サンテュール 二十五歳】
ゲーム知識がなくても分かるくらい、相性が悪い相手だった。
ミレイユは帝国教会の象徴で、慈愛そのものみたいな女性だ。銀髪に薄金の瞳、柔らかな声。画面越しでも眩しかった。元のレティシアは教会領の水利権を奪い、孤児院への支援を打ち切ったせいで、ミレイユから本気で嫌われている。
嫌われている相手を口説け、と鏡は平然と言う。
私は翌朝すぐに大聖堂へ向かった。礼拝堂の外には、炊き出しを待つ子どもと年寄りが並んでいる。資料でしか見ていなかった貧しさが、現実の匂いを持って立っていた。
「公爵閣下が、どうしてこちらに?」
ミレイユ本人は、ちょうど子どもたちにパンを配っていた。清らかな美貌に見惚れるより先に、声音の温度の低さが刺さる。
「謝りに来ました」
「ずいぶん都合のいい言葉ですね」
私は否定しなかった。都合がいいのは事実だ。けれど、ここで取り繕っても意味がない。
「あなたが嫌うレティシアそのものです。でも、これから変わる機会をください。まずは孤児院の支援を元に戻します」
ミレイユはパン籠を抱えたまま、私をまっすぐ見た。
「あなたは今さら善人の真似をして、何を得たいのですか」
問われて、少しだけ考える。
「生き残りたい。でも、それだけじゃなくなってきました」
聖女の瞳が、ほんの少しだけ揺れた。




