第39話 八つ目の生存印
鏡は割れなかった。代わりに、檻みたいな表示を吐き出した。
【相互非競合誓約 確認】
【処刑分岐 外縁凍結】
【継承干渉機関 管理者未特定】
そして白い光が、エルザの名へ流れ込む。
【宮廷学者ルート死亡フラグ 一件解除】
【生存印《書架の百合》を獲得しました】
八つ目の印だ。
手の甲へ重なった百合紋を見て、私はようやく息を吐いた。全部終わったわけではない。でも、少なくとも“誰か一人が死ぬことで話が進む”段階は越えた。
「管理者未特定、ね」
クラリスが忌々しげに呟く。
「内務府か、継承院か、あるいはその両方」
「もう一つあります」
エルザが焼け残った台本を開いた。
「次の章に“暗殺メイド長”の投入予定が記されています。円卓そのものを内側から壊すための駒です」
ヴィオラが笑う。
「楽しそうじゃない」
「全然楽しくないわよ」
ナディアが肩をすくめ、セレーネは剣の柄を叩く。ミレイユは静かに祈り、サフィアは月紋の瓶を指で回す。
皆がいる。それだけで、以前の私なら信じられないほど心強い。
「なら先にこちらから宣言しましょう」
私は誓約書を持ち上げた。
「女を競わせて統治する時代は終わり。今度は、女たちが連帯して制度を選ぶ」
鏡の檻表示が、ほんの少しだけ薄くなる。
覇道ルートはまだ途中だ。けれど今の私は、もう一人で処刑台へ歩いていく女公爵ではない。




