第40話 処刑ルートの外側へ
八名署名の誓約は、その日のうちに“白百合同盟”として公に出された。
王都の広間へ並んだのは、王太女、聖女、女騎士団長、魔女伯爵、東方商会連合長、北境女提督、砂漠王国の巫王、宮廷学者、そして女公爵の私。どう考えても、制度の側から見れば悪夢の景色だろう。
「たいへん結構」
クラリスが開会を告げ、ナディアが物流協定を、セレーネが補給防衛線を、サフィアが水利の相互保全を読み上げる。エルザは継承記録の監査権限を新設し、ミレイユは保護施設への共同支援を提案した。
女たちが争わず、役割を持ち寄るだけで、こんなにも世界は広く見える。
私は壇上から彼女たちを見て、ふいに笑ってしまった。
「何ですか、その顔は」
エルザが不思議そうに訊く。
「だって、ここまで来るなんて思わなかった」
「まだ途中よ」
ヴィオラが酒杯を揺らす。
「ええ。でも、ようやく処刑ルートの外に出た気がする」
そのとき、広間の後方で女官がひとり膝をついた。黒いメイド服、鋭い灰色の目、年は二十代後半だろうか。彼女は無駄のない動きで一通の封書を差し出す。
「内務府暗務室付き、カミラと申します」
空気が緊張で細くなる。
「私は本来、本日あなた方の茶へ毒を入れる手筈でした」
とんでもない自己紹介である。
「でも予定を変えます」
彼女はまっすぐ私を見た。
「女たちが争わないほうが、どうやら面白そうなので。次に殺される予定の名簿を持ってきました」
鏡が、愉快そうに白く光る。
【次章分岐 暗殺メイド長、接触】
私は天を仰ぎ、それから笑った。
「本当に休ませてくれないのね」
それでも、今度は一人じゃない。円卓にはもう八つの印と、八人分以上の体温がある。
処刑ルートの外側で、私たちの覇道はまだ続く。




