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第37話 禁書庫の処刑台

継承記録庫の奥には、本ではなく台本が保管されていた。


 羊皮紙の束を開くたび、誰かの人生が“イベント”として記されている。王太女が孤立する夜、聖女が告発される朝、女提督の補給が切れる日。私が踏み潰してきた死亡フラグは、全部ここで事前に配役されていた。


「ふざけてる」


「ええ。だから嫌いなんです」


 エルザは珍しく感情をにじませた。彼女は長年ここで台本を写し、必要な女たちへ“自然な悲劇”を配り続けてきたらしい。拒めば、次は自分がページから消されるから。


「あなたも標的だったの?」


「宮廷学者は便利ですから。黙っている限りは」


 そのとき、上階で錠前の落ちる音がした。続いて煙。記録庫ごと燃やす気だ。


「内務府」


「たぶん。証拠ごと私たちを焼くつもりね」


 私は書棚から処刑記録箱を抱え、エルザは水封鍵で奥の通路を開く。逃げる途中、彼女が咳き込んだ。普段は本と一体化していそうな人が、思ったよりずっと生身だと分かる。


「走れる?」


「学者を舐めないで。逃走経路の暗記くらいできます」


 言いながらふらつくので、全然説得力がない。私は彼女の手を引き、煙の薄い側へ押し込んだ。


「死なせないわ」


「そういうこと、いつもそんな真顔で言うんですか」


「ええ」


 最後の扉を抜けた先は、古い閲覧室だった。背後で禁書庫の一角が崩れる音がする。助かった。でも、もう後戻りはできない。


 処刑台は本の形をしていた。なら、その台本ごと引き裂くしかない。


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