表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/40

第36話 宮廷学者は運命に注釈を入れる

宮廷学者エルザ・ラインフェルトは、禁書庫の階段で私を見るなり言った。


「前のレティシアより、だいぶまともそうですね」


 初対面の挨拶としては最低点だ。


 エルザは三十四歳。灰青の髪をひとつに束ね、インクで汚れた指先をしていた。美人かと問われれば間違いなく美人なのに、本人はそれを本棚にでも置いてきたみたいな顔をしている。


「あなた、鏡のことを知っているのね」


「少しだけ。正確には、“鏡を動かしている記録”を」


 彼女は私を地下の閲覧室へ案内した。そこには、処刑、失脚、婚姻、継承と書かれた箱がずらりと並んでいる。嫌な予感しかしない。


「帝国には古い継承補助機関があるの。通称リリアン・コード


「百合乙女ゲームみたいな名前ね」


「笑い事ではありません。これは歴代の有力女性統治者を“競わせて削る”ための政治装置です」


 箱の中から出てきた羊皮紙には、見覚えのある文字が並んでいた。


『王太女ルート 女公爵断罪』

『聖女ルート 水利権没収』

『女提督ルート 補給失敗により失脚』


 ぞっとする。私が鏡で見てきた死は、呪いではなく制度だったのだ。


「どうしてそんなものが」


「女たちが連帯すると継承秩序が壊れるから。だから最初から、恋も権力も奪い合わせるよう設計した」


 エルザは淡々と告げる。怒っているようには見えない。けれど万年筆を握る指だけ白い。


「あなたは?」


「記録係でした。反吐が出るほど優秀な」


 彼女は私へ視線を向けた。


「でも今は、あなたに注釈を入れたい。運命の脚注を、全部書き換える形で」


 宮廷学者は愛の言葉すら学術的だ。けれど、嫌いじゃない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ