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第35話 七つ目の百合印
月泉婚礼儀は、中止ではなく書き換えられた。
婚礼ではなく盟約儀式として、サフィアは帝国への従属ではなく女性統治者同士の水利協定を読み上げる。ナーシルの泉は誰かの花嫁道具ではない。国そのものの血だ。そう宣言する声は静かで、でも砂漠じゅうへ届く強さがあった。
儀式の最後、彼女は私へ銀瓶を差し出す。
「月の水を受けて」
私はそれを飲み、残りをサフィアへ返した。共有の杯。支配でも献身でもなく、対等の証。
鏡が白く咲く。
【砂漠王国の巫王ルート死亡フラグ 一件解除】
【生存印《月泉の百合》を獲得しました】
七つ目の印が手の甲へ重なる。
サフィアは私の手へ唇を落とし、小さな鍵片を載せた。青い石がはめ込まれた薄い板だ。
「禁書庫の水封鍵。帝都の宮廷学者エルザ・ラインフェルトだけが、これを読む意味を知っている」
「次の対象?」
「たぶん。あの人は本ばかり愛しているふりをして、誰より歴史に怒っているわ」
鏡が応えるように表示を変える。
【第八対象 宮廷学者エルザ・ラインフェルト】
【継承記録庫 封鎖まで残り五日】
五日。ずいぶん急だ。
「帝都へ戻るわ」
「今度は本の海ね」
サフィアがそう言って微笑む。私は頷き、七つの印が並ぶ手を握り直した。ここまで来たのなら、もう鏡の外側まで行くしかない。




