第30話 六つ目の生存印
捕えた私掠船から出てきた命令系統は、王都軍務局ではなく宮廷内務府へつながっていた。
女司令官の補給を切り、海運を男系貴族へ戻す。その一文を見つけたとき、私は怒るより先に納得してしまった。結局いつも同じだ。女が自分の名前で軍も金も持ち始めると、誰かが必ず“正常化”したがる。
だから、こちらも同じだけ明確にやり返す必要がある。
ノルドレイヴ帰港の日、セレーネは沿岸砦と艦隊の前で宣言した。
「東方商会連合、ヴェルノワ公爵家、そして北境艦隊は補給協定を結ぶ。以後、北の海で女性当主と女性指揮官を狙う拿捕行為は、艦隊への敵対とみなす」
女水兵たちの歓声が、冷たい港をあたためる。
式が終わったあと、提督室で二人きりになると、セレーネは外套を脱いで私の肩へ掛けた。
「北の正式な礼です」
「随分あたたかい礼ね」
「今日はそれで済ませるつもりでした」
言いながら、彼女は私の頬へ手を伸ばす。冷たいと思っていた指先は、もうそんなに冷えていなかった。
「でも、あなたが祝砲の約束をしたから」
静かな口づけは、嵐のあとの海みたいに深かった。鎧の外にある彼女は、思った以上にまっすぐで、不器用で、優しい。
鏡が白く弾ける。
【北境女提督ルート死亡フラグ 一件解除】
【生存印《霜刃の百合》を獲得しました】
六つ目の印が光る。
「これで海は味方ね」
「海だけではありません」
セレーネは唇を離し、軍人らしい厳しさのまま言った。
「私もです、レティシア」
反則だ。そんなの、嬉しいに決まっている。
そのとき、鏡に新しい月紋が浮かんだ。
【第七対象 砂漠王国の巫王サフィア・アル・ナーシル】
【月泉婚礼儀 発動まで残り八日】
港の冷気が消えたかと思えば、今度は砂の熱が近づいてくる。覇道ルートは休ませてくれない。




