第3話 最悪の相手は王太女殿下
夜会の大広間は、断頭台よりよほど綺麗だった。
シャンデリアが黄金色に輝き、軍服もドレスも宝石みたいに磨かれている。その中心で、王太女クラリスは白銀の軍装ドレスに身を包み、ひときわ冷たい美しさで周囲を睥睨していた。
ああ、本物は画面越しよりずっと綺麗だ。見惚れている場合じゃないけれど。
元のシナリオでは、このあと宰相派が私の横領と謀略の証拠を提示し、クラリスが私を排除する。だが私は知っている。その証拠の半分は偽造で、残り半分は宰相派がわざと私の名義を使ったものだ。そして今夜、クラリスのグラスには遅効性の毒が仕込まれる。
私は配膳の列を見た。左手に指輪をした給仕がひとり。いた。
「殿下」
大勢の貴族が息を呑む中、私は淑女の礼を取った。クラリスの紫水晶みたいな瞳が細くなる。
「弁明なら聞きません、レティシア」
「弁明ではありません。あなたのグラスに毒が入っています」
ざわ、と周囲が波打った。クラリスは顔色ひとつ変えない。けれど近衛たちが一斉に身構える。
「証拠は?」
「給仕の左手、小指の黒曜石の指輪。宰相補佐の私兵だけが使う印です。今飲めば、明日には“女公爵の呪い”のせいにされます」
クラリスの視線が給仕へ飛んだ。次の瞬間、近衛がその男を取り押さえる。床に落ちたグラスから、淡い青い煙が立ちのぼった。
大広間が一気に殺気立つ。
「……続きは、別室で聞きましょう」
クラリスが低く言った。
断罪イベントは、たった一言で尋問イベントへ変わった。




