第28話 旗艦の寝台は狭すぎる
北の海は、夜になると音まで固くなる。
その夜は吹雪で、私は旗艦の客室へ戻れなかった。安全上の理由で、提督室に留まれと命じられる。提督室と言っても、机と地図棚と寝台がひとつあるだけだ。軍人の部屋らしく無駄がない。
「寝台は使って」
「提督は?」
「私は椅子で眠れる」
「それは駄目」
結局、二人で寝台を分け合うことになった。狭い。旗艦の寝台は、恋愛向きにはまるで出来ていない。
肩が触れるたび、セレーネの体温が驚くほど低いと分かる。
「いつもこんなに冷たいの?」
「北の人間ですから」
「便利な言い訳ね」
彼女は少しだけ笑った。ほんの少しだけ。
「……昔、寝台を分けた相手に情報を売られたことがある」
暗闇での告白は、海より静かだった。
「だから人と眠るのは得意じゃない」
「じゃあ今夜は、売られない経験を更新しましょう」
私は彼女の手を取って、自分の胸元へ引き寄せた。軍人の硬い指が、こちらの鼓動を確かめるみたいに止まる。
「私、あなたの艦も部下も売らないわ」
「……あなた、自分が口説いている自覚はある?」
「だいぶ前から」
吹雪の音に紛れて、セレーネが小さく息を吐く。
「ずるい人だ」
「今さら?」
彼女は目を閉じたまま、額を私の肩へ預けた。恋人みたいな甘さというより、やっと鎧を下ろせる場所を見つけた人の重さだった。
眠りに落ちる前、私は知る。冷たいのは海のせいだけではない。ずっと誰にも温めてもらえなかったからだ。




