第27話 凍港に沈む補給船
補給船は沈められたのではなく、沈むように準備されていた。
北航路へ出て半日、先行していた輸送船のひとつが氷域で傾いた。セレーネの号令で曳航し、私は船腹の割れ目を確かめる。砲撃跡ではない。積み荷の重心が意図的に片寄らされ、氷へ乗り上げた瞬間に割れるよう仕組まれていた。
「帳簿を」
貨物目録を見ると、乾パン樽と火薬箱の位置が現場で入れ替えられている。しかも手を入れたのは、北境へ着く直前の中継港だ。
「補給線そのものに裏切りがいるわね」
「艦内ではないと?」
「あなたの部下がやるなら、もっと綺麗に沈めるでしょう」
セレーネが一瞬だけ目を瞬かせた。
「妙な評価をありがとう」
甲板では濡れた女水兵たちが歯を食いしばって樽を運んでいる。北境艦隊は、女が多い。寒さと長い航海に耐える根気で選ばれたせいだと、さっきセレーネが言っていた。
「この船が落ちたら、前線の沿岸砦は三日で飢える」
「砦の指揮官も女?」
「ええ。だから補給を切られるのよ」
あまりにも露骨で、笑えない。
私は火薬箱の封蝋を剥がした。中身は半分が湿っている。砲は撃てても、連戦は持たない。
「狙いは失脚だけじゃない。北を無力化して、女性指揮官の補給は危険だと印象づけること」
セレーネの横顔がさらに冷える。
「なら、今ここで止める」
彼女は迷わず副官へ命じた。
「全艦、積荷再編。補給樽は旗艦へ、火薬は私の監督下で移す」
強い命令だ。けれどその強さが、ずっと誰にも守られなかった証拠にも見えた。
私は甲板へ出て、濡れた縄を一緒に引く。女公爵の手には向かない作業だろう。でも今さら、似合うかどうかで命は守れない。
セレーネが低く言った。
「そんなことまでやる必要はない」
「あるわ。あなたの海を守りたいもの」
氷の女提督は、その言葉にだけ少し弱かった。




