第23話 香料船団と偽勅許状
踏み込んできた税務官たちは、本物の制服を着ていた。だからこそ偽物だと分かった。
官印の位置が古い。王都で去年改められた縫い付け位置のままだ。私は紙束を奪い取り、ナディアは窓から短く笛を吹く。下の運河に待機していた商会私兵が、あっという間に裏口を塞いだ。
「偽勅許状ね」
クラリスから借りた近衛証票を見せると、男たちの顔色が変わる。連中の狙いは税の徴収ではない。明朝出る香料船団の積荷差し押さえだ。
「止められたら、東部の女商人は一斉に資金繰りで死ぬわ」
ナディアの声だけが静かだった。
私たちはすぐ港へ向かった。夜明け前の埠頭では、香辛料を積んだ小型船が五隻、出航待ちをしている。帳簿を見ると、保証金の請求先はすべて女性当主の船だけに集中していた。
「女が金を持つと国が乱れる、って理屈でしょうね」
「乱れて困るのは、女が金で自由になる場合だけよ」
ナディアは鼻で笑い、ひとつの箱を開けた。中に入っていたのは胡椒ではなく、粗悪な鉄屑だ。船団ごと押収されれば、密輸の罪まで着せられる。
「ここまで汚いと、逆に感心するわ」
私は倉庫番号を追い、偽勅許状の発行元が帝都ではなく東部中継局になっていることに気づいた。つまり現場に、まだ太い根がある。
「この番号、去年廃止された印字です」
「使えるわね?」
「ええ。これで“本物を装った偽物”だと証明できる」
けれど証明だけでは遅い。日の出までに船を動かさなければ、港湾局が封鎖される。
「全部、私名義で出す」
「それじゃあなたが標的になるわ」
「もうなってる」
ナディアは私を見た。
「あなたは?」
私は印章袋を開き、ヴェルノワ公爵家の通行証を机へ叩きつけた。
「公爵名義で護送する。文句があるなら、女公爵と東方商会連合長に同時に喧嘩を売ればいい」
その返事に、ナディアは少しだけ目を見張り、それから満足そうに笑った。
「ああ、やっぱりあなた、高い女だわ」




