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第24話 契約書は絹手袋の中に

偽勅許状の根は、東部中継局ではなく、その地下金庫にあった。


 ヴィオラが眠り薬を、クラリスが捜査許可を、イリスが力仕事を担当し、私はナディアと一緒に鍵穴を覗き込む。商人と女公爵で夜中に官庁へ忍び込むなんて、前世のコンプライアンス研修が泣きそうだ。


「左から三番目、絹手袋の箱」


 ナディアが囁く。彼女の一族は昔、この局へ出入りする上級税務官に賄賂用の手袋を卸していたらしい。隠し金庫の癖まで覚えているのがすごい。


 箱の底には、本物の空白勅許状と東部監督官の私印、それに女商人の名簿が出てきた。要するに、女たちの資産を合法の顔で没収する仕組みが出来上がっていたのだ。


「最低」


「ええ。でも、これで終わらせられる」


 証拠を抱えて取引所へ戻ると、ようやく息がつけた。夜明けの帳場で、ナディアは片方だけ手袋を外し、素の指先で机を叩く。


「ねえ、レティシア。私、いつも契約で人を縛ってきたの」


「知ってる」


「そうしないと、先に売られるから」


 そこで初めて、彼女の疲れの意味が見えた。東方商会連合長は華やかだ。けれどそれは、誰にも先に値札を貼らせないための鎧でもある。


 私は彼女の外した手袋を取り、指に残った跡へそっと口づけた。


「じゃあ今夜は、契約書なしで選んで」


 ナディアが息を止める。


「そんな顔、ずるいわ」


「商売じゃないでしょう?」


 彼女は小さく笑って、私の額を自分の肩へ引き寄せた。


「ええ。これは損得じゃない」


 夜明け色の帳場で交わした口づけは、今度はずっと長かった。絹手袋の外にある体温を、ナディアはたしかめるみたいに何度もなぞった。


 契約書はもう要らない。少なくとも、この瞬間だけは。


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