第20話 そして女公爵は全員を口説くと決めた
その夜、私はヴェルノワ公爵邸の円卓に四人を集めた。
王太女クラリス。聖女ミレイユ。女騎士団長イリス。魔女伯爵ヴィオラ。並んだだけで政争が起きそうな顔ぶれだ。
最初に口を開いたのはクラリスだった。
「説明してもらいましょう。なぜ私の政敵と、聖女と、騎士団長と、魔女伯爵が同じ屋敷から出てくるのか」
「それは私も聞きたいです」
ミレイユがにこやかに追撃し、イリスは腕を組み、ヴィオラは面白そうに紅茶を飲んでいる。修羅場というやつだ。
私は深呼吸し、手の甲の四つの百合印を見せた。
誰にもまだ全部は説明できない。でも、ひとつだけ本当のことを言う。
「私は、皆を利用したい」
三人の視線が鋭くなり、ヴィオラだけが笑みを深くした。
「同時に、皆を守りたい」
静まり返る部屋で、私は続ける。
「この帝国には、女たちを争わせて消費する仕組みがある。王位も、教会も、軍も、貴族も。私はそれを壊したい。そのために、皆の力を借りたい」
クラリスがゆっくり椅子にもたれた。
「ずいぶん大きく出たわね」
「ええ。どうせなら、処刑ルートじゃなく覇道ルートを選ぶわ」
数秒の沈黙の後、ミレイユがふっと笑う。イリスは呆れたように額を押さえ、ヴィオラは拍手した。
「いいじゃない。全員まとめて口説いてしまいなさいな」
その瞬間、邸の外で馬車の音が止まった。
侍女が慌てて駆け込み、名刺を差し出す。
「東方商会連合長、ナディア・ベルフォール様がご到着です。“次に口説かれるのは私かしら”とのことです」
私は天を仰いだ。
鏡は嬉々として光っている。
【第五対象、接近中】
生き延びるための恋愛は、まだ始まったばかりだった。




