第18話 取引はベッドの上で
襲撃は、ヴィオラにとって想定内だったらしい。
使用人たちは手際よく避難し、地下の隠し通路まで確保されていた。私はイリスにもらった短剣を握ったまま、ヴィオラに導かれて最上階の私室へ入る。
「ここが一番安全なの?」
「ええ。私以外、誰も入れないもの」
言いながら彼女は扉を閉め、鍵を回した。鏡はもう、隠す気もなく宙に浮いている。
【信頼条件達成率 八十八%】
あと少し。その“少し”が、いつも一番厄介だ。
ヴィオラは長椅子に腰を下ろし、脚を組んだ。
「あなた、私を利用しているでしょう」
「否定はしない」
「いい子。では私も正直に言うわ。私はあなたが欲しい。可哀想だからでも、面白いからだけでもない。この国を変える火薬になると思っているの」
その言葉は、口説き文句というより共犯の誘いだった。
私は帳簿を見た。反乱の根は深い。ひとりでは無理だ。たぶん、クラリスたちとでも足りない。
「なら、私も正直に言う。あなたが必要」
ヴィオラがゆっくり立ち上がる。
「寝台に持ち込むには、悪くない本音ね」
紫のカーテンに覆われた寝台で、私たちは長い取引をした。運命を知る者同士の腹の探り合い。触れ合うたびに、言葉より先に本心が剥がれていく。
彼女の唇は毒のように危うくて、でも不思議と安心した。こんな人に心を許すのは間違っていると分かっているのに、その間違いに生き延びる価値があった。
夜が明ける頃、ヴィオラは私の耳元で囁いた。
「あなた、四人で満足するつもりじゃないでしょうね」
もちろん、そんな甘い話ではなかった。




