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第14話 剣より熱い体温
イリスの体温は、鎧の印象よりずっと熱かった。
嵐の夜、狭いテントの中で私たちは長く言葉を交わした。兄を失った日のこと。王都を守るために感情を削ってきたこと。私もまた、自分の身を守るために始めた行動が、いつの間にか誰かを守りたい気持ちへ変わっていたこと。
「私は、お前を簡単には信じない」
「でしょうね」
「だが、もう憎むだけではいられない」
その告白は、恋の宣言というより降伏に近かった。
私はそっと彼女の頬に触れた。イリスは拒まない。代わりに、自分から私を引き寄せる。剣を扱う手とは思えないほど丁寧な抱擁だった。
夜明け前、嵐が止んだ頃、鏡が淡く光る。
【女騎士団長ルート死亡フラグ 一件解除】
【生存印《剣の百合》を獲得しました】
同時に、イリスは私の肩口に顔を埋めたまま、くぐもった声で言った。
「……これで終わりにするな」
「するわけないでしょう」
翌朝、私たちは秘密駐屯地から原本を押収した。軍務卿ローディスは失脚し、イリスの兄の名誉回復も動き始める。
王都へ帰る馬上で、鏡が次の名を示した。
【第四対象: 魔女伯爵ヴィオラ・エーヴェルン 二十九歳】
その名前を見たイリスが、露骨に嫌な顔をした。
「あの女だけは、やめておけ」
無理だと思う。だって次に死ぬのは、そのルートなのだから。




