13/16
第13話 夜営テントの停戦協定
焼け残った帳簿には、軍務卿ローディスの署名があった。
決定打になる原本は、王都の外にある秘密駐屯地へ移されたらしい。イリスと私は少数精鋭で証拠奪還に向かった。王都で大勢動けば、相手に悟られる。
ところが山道に入った途端、季節外れの嵐に巻き込まれた。
テントはひとつ。しかも風で骨組みが軋んでいる。
「またこの展開……」
私が呟くと、イリスが眉をひそめた。
「何だ」
「いいえ、こちらの話です」
鏡は容赦なく光っていた。
【信頼条件達成率 九十三%】
あと一押し。数字で見ると身も蓋もないけれど、ここまで来たのは確かだ。
濡れた外套を干し、イリスは私に背を向けたまま言う。
「兄は、私より賢かった。だからこそ殺された」
珍しく、自分から話してくれた。
「私は剣しかない。だから、力で全部守るしかないと思っていた」
「それも立派な才能よ」
「だが、お前は違う。人の傷を見つけて、そこに平然と手を伸ばしてくる」
責めているのか、褒めているのか、よく分からない。
嵐が強まり、テントの中が冷える。私は黙って毛布を広げた。イリスは数秒迷ったあと、私の隣に腰を下ろす。
「今夜だけだ」
「はい、団長殿」
その返事に、彼女は小さく笑った。
そして夜更け、肩を寄せ合う距離で、彼女は自分から私の額へ唇を落とした。
停戦協定としては、だいぶ甘かった。




