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第76話『不器用な努力と、譲れない想い』

放課後。

学院の一角——調理室。

本来なら、穏やかな甘い香りが漂う場所。

だが今は——

「……焦げてますね」

静かな声。

目の前には、黒い塊。

原型をとどめていない何か。

「……うるさいです」

即答。

ルナは腕を組み、睨み返す。

額にはうっすら汗。

髪も少し乱れている。

明らかに——何度も失敗している。

(……また、やり直し)

内心で小さく息を吐く。

机の上には材料が散らばっている。

粉。砂糖。卵。

そして——失敗作の山。

ルナは一つそれを見て、

「……次です」

淡々と呟く。

ラフリは壁にもたれながら、その様子を見ていた。

「……まだやるのか」

「当然です」

迷いのない声。

その目は真剣そのもの。

「諦める理由がありません」

(……頑固だな)

ラフリは小さく息を吐く。

「また焦がすぞ」

「焦がしません」

即答。

——だが。

数分後。

ジュッ……

煙。

「……焦げてますね」

「……今のは確認です」

(言い訳)

ラフリは軽く目を閉じる。

きっかけ

「……貸せ」

ぽつりと。

ルナの動きが止まる。

「は?」

「基本からやる」

ラフリはキッチンに近づく。

ルナは眉をひそめる。

「あなたに教わる理由はありません」

即座に拒否。

だが——

ラフリは淡々と続ける。

「アリアに食わせるんだろ」

——沈黙。

完全に止まる。

ルナの思考も、身体も。

「……っ」

顔がわずかに赤くなる。

「な、何を……」

「違うのか」

追い打ち。

逃げ場はない。

ルナは視線を逸らし、

「……違いません」

小さく認める。

(分かりやすすぎる)

ラフリは軽く頷く。

「なら覚えろ」

「……っ」

少しの間。

葛藤。

だが——

「……教えなさい」

小さく。

悔しそうに。

それでも——前を向いて。

特訓開始

「火は弱めだ」

「分かっています」

(分かってない)

ジュッ。

「強い」

「……調整中です」

(言い訳その2)

ラフリは手を伸ばし、火加減を直す。

「ここだ」

「……」

ルナは黙って見ている。

真剣に。

一切、目を逸らさず。

「混ぜ方が雑だ」

「……」

「力入れすぎだ」

「……分かっています」

だが——

その手は確実に変わっていく。

少しずつ。

ほんの少しずつ。

何度も失敗

一回目——失敗。

二回目——崩れる。

三回目——形が歪。

そのたびに——

ルナの手に小さな傷。

「……っ」

「やめるか」

ラフリが言う。

ルナは即座に首を振る。

「やめません」

迷いなし。

「まだです」

(……本気か)

ラフリは少しだけ視線を落とす。

「……なんでそこまでやる」

ぼそり。

ルナは手を止める。

ほんの一瞬。

そして——

「……決まってます」

小さく。

だがはっきりと。

「アリア様のためです」

迷いのない目。

真っ直ぐ。

一切、揺れない。

——それを見て。

ラフリはそれ以上、何も言わない。

ただ静かに、

「……続けろ」

それだけ。

変化

時間が流れる。

何度も繰り返す。

失敗。

修正。

挑戦。

ルナの動きが変わる。

最初のぎこちなさが消え、

少しずつ——

“形”になっていく。

「……今だ」

「……っ」

オーブンへ。

待つ時間。

静寂。

ほんの少しの緊張。

——そして。

「……できました」

取り出された焼き菓子。

今回は——

綺麗な形。

香ばしい匂い。

完璧ではない。

だが確実に——成功。

ルナの目が、ぱっと輝く。

「……っ」

小さく息を呑む。

そのまま、ほんの少しだけ笑う。

心から。

譲れないもの

ラフリが手を伸ばす。

「試す」

「ダメです」

即答。

手で止める。

「……なんでだ」

ルナは少しだけ胸を張る。

「これは」

一瞬、言葉を選ぶ。

だが——迷わない。

「最初に食べるのは、アリア様です」

きっぱり。

揺るがない。

ラフリは一瞬だけ黙る。

そして——

「……そうか」

静かに手を引く。

事件(ツンデレ発動)

少しの沈黙。

ルナは視線を逸らす。

「……その」

小さく呟く。

一歩、近づく。

焼き菓子を一つ手に取る。

「……確認のためです」

言い訳。

完全に。

ラフリの前に立つ。

「……食べなさい」

少しだけ顔を背けながら。

ラフリは何も言わず、

そのまま口を開ける。

ぱく。

直接。

(え。)

ルナの思考が止まる。

完全フリーズ。

数秒。

無音。

「……問題ない」

ラフリが淡々と評価する。

その瞬間——

ボンッ!!

ルナの顔が一気に赤くなる。

「なっ……ななな……!!」

理解が追いつかない。

そして——

ドゴッ!!

鋭い蹴り。

ラフリ、床へ。

「触らないでください!!」

「この手も!!身体も!!」

「全部——アリア様のものです!!」

完全パニック。

ラフリは床に転がったまま、

「……理不尽だな」

ぼそり。

ルナは背を向ける。

顔は真っ赤。

だが——

手の中の焼き菓子を、ぎゅっと握る。

(……成功、しました)

小さく、心の中で呟く。

ラフリは起き上がりながら、

その背中を一瞬だけ見る。

何も言わない。

ただ——

ほんの少しだけ目を細めた。

遠く。

廊下の角。

その様子を見ていたアリアは——

「……ほんと、あの二人」

小さく笑う。

朝まであった重さが、

少しだけ消えていた。

心が、軽い。

穏やかな空気が戻る。

日常が、ゆっくりと流れ出す。

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