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第75話『甘さの裏と、隠せない本音』

昼休み。

穏やかな日差しが、学院の中庭を包んでいる。

生徒たちはそれぞれの時間を過ごし、

どこからか笑い声が聞こえてくる。

——平和な光景。

本来なら、そう感じるはずだった。

「……はぁ」

だがアリアは、小さくため息をつく。

ベンチに座りながら、額に手を当てる。

(……疲れる。)

原因ははっきりしている。

考えなくても分かる。

——ラフリとルナ。

朝からずっと。

会えば空気がピリつく。

話せばどこか噛み合わない。

視線がぶつかるたびに、妙な緊張が走る。

(なんであの二人、あんなに相性悪いのよ……)

いや、正確には——

(ルナが一方的に刺してる気がするんだけど……)

思い出すだけで頭が痛くなる。

「……普通にしてくれればいいのに」

ぽつりと呟く。

その“普通”が、今は一番遠い。

その時——

「アリア様」

柔らかな声が届く。

顔を上げる。

そこにはルナが立っていた。

「……何?」

少しだけ力の抜けた声で返す。

ルナはいつも通り、穏やかな微笑みを浮かべていた。

「少し、お時間よろしいですか?」

手には、小さな包み。

布で丁寧に包まれている。

(……また何かやる気ね、この子)

アリアは内心で思いながらも、小さく頷く。

「いいわよ」

ルナはほっとしたように、ほんの少しだけ表情を緩めた。

二人は並んでベンチに座る。

風が、静かに通り抜ける。

一瞬、穏やかな沈黙。

だが——

「……それで?」

アリアが包みを見る。

ルナは少しだけ視線を逸らしながら、

「……その、これを」

差し出した。

「作ってきました」

「……え?」

思わず聞き返す。

「手作り、です」

小さく。

けれど確かに。

アリアは一瞬、固まる。

(この子が……料理?)

失礼な考えだが、正直そう思った。

だが——

差し出された包みは、丁寧で、温かみがあった。

「……開けていい?」

「どうぞ」

ゆっくりと布をほどく。

中には、小さな焼き菓子。

少し形は不揃い。

でも——

どこか、優しい見た目。

その時。

アリアの視線が止まる。

「……ルナ、それ」

手。

細い指。

そこにいくつもの小さな傷。

絆創膏。

赤くなった皮膚。

「……っ」

一瞬、言葉を失う。

「……大したことではありません」

ルナはすぐに手を引く。

隠すように。

だが遅い。

アリアは見てしまった。

(これ……絶対、料理で……)

胸の奥が、少しだけ締め付けられる。

(……ここまでして)

ほんの少し、迷う。

味の保証はない。

むしろ——

(正直、ちょっと怖い)

だが。

「……食べるわ」

迷いを振り切るように言う。

ルナの目がわずかに揺れる。

期待と不安が混ざったような表情。

アリアは一つ手に取る。

少しだけ固い。

少しだけ歪。

でも——

(……あったかい)

一口。

サクッ。

「……っ」

その瞬間。

予想が裏切られる。

(……おいしい)

優しい甘さ。

ほんの少し不器用な味。

でも——

どこか、安心する味。

「……おいしいわ」

はっきりと言う。

ルナの目が大きく開く。

「……本当、ですか?」

「ええ」

即答。

その一言で——

ルナの顔がぱっと明るくなる。

まるで、隠しきれないほどに。

「……よかった」

小さく、心からの声。

そのまま——

ちらっと横を見る。

ラフリが、少し離れた場所に立っている。

(なんでいるのよ……)

アリアが内心で思う。

ルナの視線が一瞬だけ輝く。

ほんの一瞬。

期待。

だが——

すぐに消える。

「……別に」

そっぽを向く。

「あなたに食べさせるつもりはありませんが」

いつもの調子。

だがほんの少しだけ——声が硬い。

ラフリは軽く肩をすくめる。

「……そうか」

短く。

それだけ。

(絶対分かってるでしょ……)

アリアは思う。

この微妙な空気。

このやり取り。

——完全に分かっててやってる。

小さな変化

沈黙が落ちる。

だが不快ではない。

むしろ、どこか落ち着く。

アリアはもう一口食べる。

「……ほんとにおいしい」

ぽつりと漏れる。

ルナの肩が、わずかに揺れる。

「……ありがとうございます」

素直な言葉。

だが——

その後。

小さく、もう一言。

「……その」

言葉が詰まる。

珍しく。

視線を逸らす。

そして——

ラフリの方を見ないまま、

「……手伝い、ありがとうございました」

ぼそり。

ほとんど聞こえない声。

ラフリは一瞬だけ視線を向ける。

「……ああ」

短く返す。

それだけ。

だが——

ルナの耳が、ほんのり赤い。

(……何この空気)

アリアは思う。

さっきまでの疲れが、少しだけ軽くなる。

完全に仲がいいわけじゃない。

むしろ——

相変わらず噛み合ってない。

でも。

(……悪くない)

ほんの少しだけ。

そう思えた。

風が吹く。

穏やかな昼下がり。

アリアは空を見上げる。

青い。

広い。

(……なんか、ちょっとだけ楽)

さっきまでの重さが、少し消えている。

理由は分からない。

ただ——

隣にいるルナ。

少し離れたラフリ。

その距離が、

ほんの少しだけ、心地よく感じた。

完全ではない。

不安定なまま。

でも確かに——

少しずつ、何かが変わっている。

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