別章5
★――
「ファロン。言いたいことは分かったから……ごめん。ちゃんと考えるから」
僕は、ファロンが座っているソファの横に移動して、声をかけることしかできない。
どうしよう……女の子を泣かせてしまった。
本人に聞いたら「私は道具ですから性別はありません」とか言うんだろうけど、外見も雰囲気も女の子っぽいんだから、そう扱ってしまうのは仕方ないよね?
正直なところ、彼女が必死に訴えていた内容は、頭では理解できていると思う。……事実を話してくれているんだってことも。
ファロンの方も、かなり動揺していた。
自分が取り乱したり泣いたりしたことが、信じられなかったらしい。
この後は、お互いに落ち着くまで、失敗した世界に関係する話題は避けることにした。
そう取り決めたわけじゃないんだけど、僕のことをよく知っているファロンには、僕の考えは筒抜けみたいだから、自然とそうなってしまったんだ。
こうして互いに避けようとする話題を抱えているわりには、それほど息苦しさとか居心地の悪さは感じられなかった。
それも、彼女が察してくれて、その都度程よい距離感でいてくれたことが大きかったと思う。
そういったことを感じる度に、本当にずっと僕の中にいたのだな、と妙に納得してしまった。
以前と変わったことは、二人で零界に部屋を創ったことだ。
ぼそっと、「広すぎて落ち着かないね」とぼやいたら「部屋を創りましょうか?」って言ってくれたんだ。
「それなら一緒に創ろう」って言ったら、ファロンはとても嬉しそうだった。
彼女が壁を創り、僕が天井を創る。
「白い床のままなのがなんとなく嫌かも」と言ったら、綺麗な模様が描かれた緑色の絨毯を敷いてくれた。「蔦模様です」って微笑んでいた。
お風呂がある場所も、壁と天井を創って浴室にしておいた。
今まで勝手に出てきた家具や道具類も部屋の中に配置して、居間や寝室、台所も完成した。
一通りの部屋が完成して、二人でソファに腰かけていた時のことだった。
「壁や棚に、写真というものを……飾ってもいいでしょうか?」
「構わないけど、写真が何かは教えてほしいなー」
紅茶を飲みながら呑気にそう返したら、ファロンが創り出したのは、家族写真だった。
「私の記憶から創った、他世界の技術……写真です」
爺ちゃんの隣に座る僕、向かいの席には母さん。母さんの隣には父さん。
テーブルには母さんと僕が作った食事が並んでいて……皆笑顔で食べたり喋ったりしている日常の……絵のようで絵ではないものだった。
「ファロン、他にもあるの?この……写真!もっと創れるの?」
「貴方が赤ちゃんだった頃の写真はどうですか?皆若くて驚くと思いますよ」
他世界の技術?訳が分からないけど、とにかくすごい!
「もっともっと出して、壁中に貼りたいよ」
ファロンは「額縁に入れて飾りましょう」なんて言って、綺麗な模様の四角い枠まで創ってくれた。
その後はファロンが写真を創る横で僕が額縁を創って、二人で壁に飾るのを繰り返した。
壁の大きさにも限度があるよなぁなんて考え始めた頃「アルバムというものもあるようです」と言って、少し大きな本のようなものも創ってくれた。
僕は渡される写真を次々とそれに収めていき、数冊のアルバムが完成した。
ファロンも楽しそうに、次々と写真を出しては、思い出話をしてくれて……
僕らは懐かしみながら、とても楽しい時間を過ごした。
★――
ある時、ファロンが言い出した。
「一戸建てというものにしてみましょうか?」
真っ黒な零界にポツンと家があるのを想像すると、なんて言っていいのか分からない感じ。奇妙というか、似合わないような気がしたんだけど、二人でできることがあるのは楽しい。
「やろうやろう。でも、この部屋はどうなるの?思いつくまま創っちゃったけど、どうにかなるの?」
「問題ありません、我が主。創造後調整は被造物の移動も自在です。それでは……あー……間取りを決めるというのも、案外難しいようですね……」
自在だと言った後、何やら問題があることに気付いたらしい。眉毛がハの字になっている。
「我が主、屋根と外装の好みを聞かれても困りますよね?参考の為に、他世界のカタログを出してもよろしいでしょうか?間取りを決めるにも、ある程度知識が必要なようですし……」
「自由にしていい」「ユージーンって呼んで」「我が主はやめて」
何度か言ったはずなんだけど、なかなか変わらない。ファロンは意外と頑固者なんだろうか?
「いいんだけどさー……そろそろ、ユージーンって呼んでもらうことはできないかなー?」
「……ユージーン様?」
僕は、仕方ないなぁって顔を作って、ファロンの前に立つ。
「ファロン、ずっと僕の中にいた時は、僕のことをなんて呼んでた?ユージーン、だったんじゃない?」
「……はい」
「それなら、これからもユージーンって呼んでね。あなたはファロン。ね!」
「はい、我が主……いえ、ユージーン……」
「じゃあ、カタログ?見せて見せてー」
「はい、我がぁ……ユージーン」




