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第2話 模索する活路


「……戻った……?」


 テレビの前に立ち、俺は、自分の掌を呆然と見つめる。


 確かに俺はさっき、ゾンビになったお隣のリサちゃんに襲われたはずだ。


 それなのに、五体満足でこの場に立っている。


 首元を触ってみるも……噛みつかれた跡はどこにも見当たらない。


「ど、どういうことだ? これは……?」


 考えても、理解が追い付かない。本当にゲームのようにロード、できた、のか……?


 だとしたらセーブ地点はテレビを見ていた地点? いや、手にスマホを持っていることからして、スマホにあの謎のアプリをインストールできた地点と見た方が良いだろう。


 とにかく、俺は過去に戻ることに成功した。これは間違いなく事実だ。


「―――ドンドンドンドン」


「!? そ、そうだ!! こんなことを考えている場合じゃなかった!!」


 今、ドアの向こうにいるのは、警察官のゾンビ。


 今のところ、アレに関しては特に問題にはならない。


 俺はアレに襲われて死にそうになったわけじゃないからだ。


 俺はすぐに背後を振り返る。ドアの音に隠れて、ベランダの窓を小さく叩く音が聴こえてきた。


 リサちゃんは間違いなく、今、あそこにいる。


 一瞬、瞼の裏に「お兄ちゃん」とにこやかな表情で声を掛けてくれていた、人間だった頃の彼女の姿が過るが……俺は頭を横に振り、部屋の中に武器になるものがないか、周囲を確認してみる。


 掃除機、毛布、ゲーム機、座椅子、パソコン……くそ、どれも武器にはなりそうにないな。


 台所に包丁はあるが……流石にリーチが短すぎるか。


 ゾンビといったら、噛まれたらアウトなところがあるからな。ゲーム知識だと。


「どこかに、リーチが長くて、武器になるものは…………あ、あった!!」


 俺は、玄関横にある傘立てから傘を一本引き抜く。


 それと同時に、外の窓が割られ、黒髪の少女が姿を現した。


「アァァァ……」


 リサちゃんは長い黒髪を揺らし、ユラユラと、俺の元へと近付いて来る。


 俺は傘を構え、臨戦態勢を取った。


「ゾンビといえども……相手は、小さな女の子だ。そんな相手を殺す覚悟が……俺にはあるのか……?」


 しかも、顔見知りの相手。


 躊躇したら死ぬということは分かっているが、俺は今まで平凡な生活を送ってきたただの大学生。


 武術の経験もないし、当然、誰かを攻撃したこともない。


 だけど、生きるためには、ここで彼女を……し、仕留めなければ……っ!!!!


「アゥゥアアアアァァァ!!!!」


 こちらに向かって、走って来るリサちゃん……もとい、ゾンビ。


 最早、考えている猶予はない。


 脳裏に、先ほど経験した、彼女に襲われ殺されそうになった光景が蘇る。


 顔見知りを殺すことよりも、死への恐怖が、俺を突き動かした。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 咆哮を上げ、傘を―――彼女の顔に向けて突き出した。


 すると傘は眼球から頭に向けて突き刺さり、リサちゃんの後頭部を通過した。


 俺はそのまま駆け抜け……カンと、傘の先端を壁に叩きつける。


 ゾンビとなったリサちゃんはガクガクと俺に向けて手を伸ばし続けたが、頭を破壊したことに効果があったのか。


 彼女はそのまま、動かなくなった。


 俺はゼェゼェと息を吐きながら、傘から手を離し、その場に尻もちを付く。


 ……手が、震えている。


 当然だ。ゾンビとはいえ、人を殺したのだから。


 俺は身体を震わせながら立ち上がると、ベランダの方へと向かって歩いて行った。


 窓が割れていたため、落ちたガラス破片を踏まないようにして窓のロックを外し、外へと出る。


 恐らくリサちゃんは、ベランダの仕切りを小柄な身体ですり抜けて、こちらへとやってきたのだろう。


 案の定、隣の部屋に居るリサちゃんの両親は、仕切りをすり抜けられないのか、隙間からこちらに向かって手を伸ばし続けていた。


 ―――お隣さん一家は完全にゾンビになってしまっている。


 その現状にゴクリと唾を飲み込んだ後。俺は、ベランダの柵から崖下を見下ろしてみる。


 そこには、ウロウロと彷徨い続けるゾンビたちの姿があった。


 どうやら本当に……一晩で、世界はゾンビだらけになってしまったみたいだ。


 遠くの方の建物からは、煙が上がっている。


 荒廃した東京の街並みが、そこには広がっていた。


「これから先……いったい俺は、どうすれば良いんだ……?」


 普通に考えるのならば、この部屋に籠城して、救助が来るまで耐えるのが得策だろうか。


 だけど……今、この部屋には、籠城できるほどの蓄えは無い。


 カップラーメン6個に、パックごはん5つ、冷凍食品3つ程。


 今現在はまだ電気が通っているが、この状況では、電気が無くなるのも時間の問題かもしれない。


 とりあえず……限界まで耐えてみるのも良いかもしれない。


「それに……俺には、この謎の力、【セーブ/ロード】の能力もあるからな」


 この力さえあれば、いつでもやり直しすることはできるだろう。


 色々とこの能力について分からないことは多いが……今は、今後のことを最優先で考えよう。


 もう、ゾンビに襲われるなんてことは、懲り懲りだからな。


「そうだ……とりあえず、【セーブ】しとこうか。……【セーブ】! これで良いのか?」


『スロット1に【セーブ】完了致しました』


「うわぁ!? どこから声が!? 何か、頭に流れてきたぞ!?」


 突如脳内に流れて来た人工音声のアナウンスの声に、俺は、ただただ困惑する他なかった。

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