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第1話 ゾンビゲームの世界にやってきてしまった件について


「何だよ……? これ……?」


 俺、呉森彰(くれもりあきら)は、テレビ画面に映るニュース番組に思わず絶句してしまう。


 上空からドローンによって撮影された都心部の駅前。


 駅前のビルからは火の気が上がり、黒煙が上空を舞い上がっている。


 ロータリーにはゾンビのように徘徊する人影と、阿鼻叫喚の悲鳴を上げ、それらから逃げ惑う人々の姿があった。


 日曜早朝の番組とは思えない地獄絵図が、テレビには映し出されている。


 昨日まで何事も無く平和だっただけに、俺は―――この状況を上手く呑み込めていなかった。


『―――映像切り替わりまして、スタジオに戻ります。皆さま、現在東京都都心部には外出禁止令が出されています。昨晩午前二時頃に、大きな暴動が起きたようです。外には暴徒がいる可能性がございますので、落ち着いて、扉の付いた建物の中で待機してください。繰り返します、現在東京都都心には外出禁止令が―――』


 ヘルメットを被ったアナウンサーが、焦燥した様子でそう言葉を繰り返す。


 背後で慌ただしくスタッフが行き交っている様子から、テレビ局側も混乱していることが窺えた。


「ぼ、暴動って、いったい何なんだ? テロか何かが起きたっていうのか!?」


 俺はスマホを取り出し、急いでSNSを確認してみる。


 だが、その時。スマホのホームに……見知らぬアプリがあることに、俺は気が付いた。


「何だ、これ……?」


 可愛らしくデフォルメされたゾンビのイラストが表示されたアプリ。


 訝しみながらもそのアプリをタップしてみると、画面にアニメーションが表示された。


 ソーシャルゲームにありがちな、ガチャポンからカプセルが落ちてくるアニメーションが流れる。


 マシーンから金色のカプセルが地面へと落下し、ポンと軽快にカプセルが開くと―――上から『おめでとうございます!』とメッセージが振ってきた。


 続いて、不揃いな不気味なフォントで、メッセージが再度入力される。


『貴方サマは、このゲェムのプレイヤーに選ばれマした。プレイヤーに覚醒したことニヨリ、特殊系Sランクスキル【セーブ/ロード】を入手しましタ。この世界から脱出したいノナラ、他のプレイヤーを20人全員殺シテ1人デ生き残ってくださイ。―――三百人委員会』


「何だ……これ……?」


 メッセージが消えると、スマホの上部にある電波の隣に『残り20人』という文字が浮かび上がる。


 俺は首を傾げつつも、そのアプリをタスクキルし、SNSのトイッターを開いた。


 SNSのトレンドには案の定『東京ゾンビ』や、『動く死体』『暴動』などの言葉が上がっていた。


 目に入った動画をタップし、再生してみる。


 するとそこには……部屋の窓をバンバンと叩く、一人の死体の姿があった。


 身体から血を流し、頬がやせこけ、真っ白になった瞳で窓を乱暴に叩いている。


 撮影者は部屋の中から「なにこれ、なにこれ……」と、か細い悲鳴を上げていた。


 その映像に吐き気を催し、口元を押さえていると―――突如、玄関口のドアがドンと叩かれた。


 俺は身体をビクリと震わせ、玄関口に視線を向ける。


 すると来訪者は無言で、俺の部屋のドアをドンドンドンドンと叩いていく。


 ノックを止める兆しは、ない。


「う、うそ、だろ……? ま、まさか……」


 恐る恐るとドアへと近付き、俺は、ドアアイを覗いてみる。


 するとそこには―――額から血を流しながらこちらを見つめる、青白い顔の警察官の姿があった。


 目が合うと、警察官の男性はかなきり声を上げる。


 そしてその後、さらに「ドンドンドンドンドンドンドンドン」と、乱暴にドアを叩いていった。


「ひ、ひぃっ!?」


 思わずフローリングに尻もちをついてしまう。


 ま、まるで状況についていけない……!!


 朝起きたら、世界がいきなり、ゾンビゲーの世界になっていたなんて……!!


 確かに俺は、ホラーゲームが好きで、よくバ〇オとかやっていた。


 だけどそれは、プレイヤーは安全圏に居て、危険な世界はゲームの中だからこそ楽しむことができたんだ。


 それと、ホラーゲームの主人公は大抵、特殊訓練を受けた機動隊や警察官というケースが多い。


 しかし俺は何のとりえもないただの大学生。


 そんな無個性なキャラがゾンビゲーの世界にやってきたら、すぐにゲームオーバーになってしまうのは間違いないだろう。


 何のスキルもない凡人キャラが、ゾンビゲーの世界で生きる道など、どこにも―――。


「………アゥアゥアァ……」


「え……?」


 その時。突然背後から、何者かの声が聴こえてくる。


 目の前のドアは未だに叩かれ続けている。


 なのに、何で、一人暮らしの俺の部屋の中から……俺以外の人間の声がするんだ……?


 ゆっくりと、背後を振り返った……次の瞬間。


 黒い何かが、俺に襲い掛かってきた。


 その黒い何かは俺の肩口に歯を立て噛みつくと、俺の肉を引きちぎり、咀嚼する。


「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?!?!?」


 痛い。痛くてたまらない。


 激痛に目を白黒させていると、俺の腹の上に……白いワンピースを着た、長い黒髪の少女の姿があった。


 ワンピースは真っ赤に染まっており、少女の顔半分は裂け、眼孔からは目玉が零れ落ちている。


 十代前半位の幼い少女。それなのに、彼女を身体の上から落とすことができない。


 彼女は……俺の知り合いだったからだ。


 マンションの隣に住む、たまに公園でボール遊びなどして、遊んであげていた女の子。


 知った顔だからこそ、その変わりように、俺は恐怖心を抱いてしまっていた。


「リ、リサちゃん……? ど、どうして……?」


 部屋の奥に視線を向けると、窓が割られていた。


 ベランダには仕切り板があるが、飛び越えられなくもない高さだ。


 恐らくは……隣のベランダから仕切り板を飛び越え、俺の部屋までやってきたのだろう。


 リサちゃんはニヤリと笑みを浮かべると、俺の首元に顔を近づけ……また、肉を噛み千切った。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!」


 気が狂いそうになるほどの痛み。貪り喰われ続け、段々と意識が飛びそうになる。


 朦朧とする意識の中。俺は……あることを、ふと、思い出した。



『貴方サマは、このゲェムのプレイヤーに選ばれマした。プレイヤーに覚醒したことニヨリ、Sランクスキル【セーブ/ロード】を入手しましタ。この世界から脱出したいノナラ、他のプレイヤーを20人全員殺シテ1人デ生き残ってくださイ。―――三百人委員会』



 あのメッセージには、特殊系Sランクスキル【セーブ/ロード】を入手した……と、書かれていた。


 【セーブ/ロード】とはいったい何だ? 普通に考えれば、ゲームのセーブロード機能のことだと思われるが……。


「……」


 首を噛まれたため、もう、まともに喋れそうにはない。


 だけど、藁にも縋る思いで、俺は……ある言葉を口にした。


「……ロー……ド……」


 ――――――その瞬間。視界が暗転する。



 そして、次に視界が開けた時。俺は……部屋の中央に立っていた。


「え……?」



『―――映像切り替わりまして、スタジオに戻ります。皆さま、現在東京都都心部には外出禁止令が出されています。昨晩午前二時頃に、大きな暴動が起きたようです。外には暴徒がいる可能性がございますので、落ち着いて、扉の付いた建物の中で待機してください。繰り返します、現在東京都都心には外出禁止令が―――』


 気が付けば、ほんの数分前、テレビを見ていた状況に……俺は、戻っていたのだった。


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