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冥闇不道のアポストル  作者: 茅井 祐世
第六章 焔槍の切先
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第七十七話

 アルバソリスの階段を上がっていく。


 警護は階層につれて一段と厳しくなっていく。


 聖炎歴が始まってから、グラヌスクが事実上支配しているこのエーグナ大陸において、戦争らしい戦争は一度として起きていない。


 それはこの王城が一度として傾いたことがないことの証左でもある。


 王は史上最強と名高いお方。


 それでも、虫一匹を許さないような厳重さが、このアルバソリスには満ち満ちていた。


 自分の履く軍靴の音が小気味よく音を立てる。


 今頃ダイン・アルゴールはゼファレインを発っただろうか。風のアポストル、シェルファ・ルゥを前に、自分の力は全く及ばなかった。幼いとは聞いていたが、あれは子供だ。あんな子供に、自分の炎は嵐の中に灯る蝋燭のようにかき消された。


 もっと、もっと強くならねば——。


 ぐるぐると思案を重ねるうち、カーターは城の中腹ほど、両開きの重厚な扉の前に辿り着いていた。


 扉の前には警邏の兵とは違った、大ぶりな剣を帯刀した二人の男が立っていた。


「ただいま評議会を行っております。何か御用でしょうか」


 男の一人がカーターを認めると、声をかけてくる。


 アルバソリスを一人で歩ける人間は、ある程度限られている。カーターがいかに若いとはいえ、一定の礼儀を崩すことはない。


「カーター・アウグスト。派兵の報告に上がった。お目通しを願いたい」


 アウグスト家の嫡男。


 男たちは顔を見合わせ、少し考える仕草を見せるとうなずいた。


「お通りください」


 扉をゆっくりと開け、道を譲る。


「失礼いたします」


 カーターは頭を下げ、中へと進んで行った。


 円卓を囲んで、五人の人間が話し合っていた。


 “評議会”。


 このグラヌスクの、ひいてはエーグナ大陸の政治中枢はここで決められる。グラヌスクの長い歴史の中で功績を残し、名を上げた五つの家が“五摂家”としてそれぞれ椅子に座る。


 その目が、一斉にカーターを捉える。議論の合間だったようだが、しんとした静寂が場を支配した。


「おや、お坊ちゃんのお帰りだ」


 黒い髪をウェーブさせ、肩まで伸ばした男がこちらに向き、口の端を吊り上げて笑う。黒鉄の鎧に付けられている鎖を模した飾りがジャラ、と音を立てる。

 

「軽口は慎みなさい、ナイルズ。評議会中です」


 ヴェールを被り、目元を隠した女性が嗜める。


「へいへい。相変わらずルミナリア家はお堅い」


 ナイルズと呼ばれた男が肩をすくめる。足を組み替えて円卓に向き直した。そのやり取りを見て、向かいに座る女が舌打ちを立てる。


「で。要件は何よ。アタシの時間拘束しているんだからさっさとしな。アンタが研究を代わりに進めてくれるってのならいいけれど」


 まあまあ、となだめているのは髪を短く切りそろえた、大柄な男。カーターの父、ジョゼ・アウグストだ。


「言い方はちと……アレだが、ゼル・アッシュヴァル女史の言い分はもっともだ。取り急ぎ報告を頼む」


「はい」


 カーターは訥々と話し始めた。ゼファレインで見たものの全てを。

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