第1話 同期の桜
藤井は自宅の窓から外を眺めていた。見える範囲でも、十数体のゾンビが徘徊している。
電気が緊急事態宣言から2カ月がたっていた。1か月前からは電気も点かなくなり、携帯電話も使えない状態となっている。
緊急事態宣言から3週間が経過した頃に、政府が真実を発表した。国民は食料が底を尽き始めていたのも重なり、パニックとなって皆が家から出てしまった。ウイルスは想像以上のスピードで広がっていった。しかし、テレビも携帯電話も使えない今は外の世界を知るすべがない。
藤井は静かに状況を見ていたが、人のいなくなった近隣から集めた食料も底を尽き始めていた。それよりも東京に行った子供たちが心配であった。
「もうこうしてはいられない。ここを出て東京に向かおう。」
独り言を言っていると、外から突然ドカーンという衝撃音がした。
車が電柱に激突していた。中には人が見える。そこに十数体のゾンビが群がり始めた。藤井はただ見ていることしかできなかった。
そこに2台のバイクが現れた。
バイクに乗っていた者は拳銃のようなものを取り出し、至近距離からゾンビの頭部に向かって、素早く拳銃を打ち込んだ。銃弾を撃ち込まれたゾンビは次々に倒れていった。
その様子を見ていた藤井は、次の瞬間、家から飛び出していた。
走って事故の現場に着くと、ヘルメットを被ったままの男の一人が車から家族を救出しており、もう一人がまだ近くにいるゾンビに拳銃を打ち込んでいた。
「大丈夫ですか!! 近くにある家に避難させましょう!!」
藤井がヘルメットの男に言うと、こちらに向かって拳銃を向けてきた。
「え!!!!!!」
次の瞬間、藤井は撃たれた......
藤井の後ろから、何かが倒れる音がした。振り向くとゾンビが倒れていた。
ヘルメットの男が藤井に向かって、
「救助を手伝ってほしい。この人たちをどこかに避難させてくれ。」
そう言ったあと、もう一人の男が叫んでいた。
「泉係長!! 早くしてください!! 奥の方からまたゾンビが近づいてきています!!」
藤井は、『泉係長』という言葉を聞いて、すぐに同期の泉だと分かった。
「泉!! 俺だよ!! 藤井だ!!」
「おー!!!!!! 何してんだよ!! そうと分かれば早く手伝ってくれ!!」
事故を起こした車には高齢の夫婦が乗っていた。怪我はしているが、歩けそうだったのでその夫婦の手を引き、泉ともう一人の男と共に、藤井の自宅のアパートに連れて行った。
高齢の夫婦をソファに座らせた。泉ともう一人の男はキッチンのところで煙草を吸っている。
「藤井、久しぶりだな。こんなところで会うなんてな。」
「うっす!! 私、内田と言います!! 藤井さんに会えるなんて光栄です!!」
内田は目を輝かせ、こちらを見ている。
「泉。俺のこと、なんか言ったのか?」
「おうよ。同期の出世頭の優秀な機動隊小隊長だって話していたよ。」
「やめてくれよ。お前と違って、俺は楯もって走ることしかできない奴だったよ。」
藤井がそう言ったとき、泉は胸から拳銃を取り出し、藤井に渡した。
「そうだ。お前もこれを持っていた方が良いな。使えるだろ?」
「たぶんな。もう何年も使ってないけどな。」
久々に人と話した。それも同期の泉とこんなところで会うなんて。
しかし、これは始まりに過ぎなかった......




