第14話 緊急事態宣言①
はじまりは札幌であったが、徐々に全国的な広がりを見せている。まるで、雪まつりを発端に広がりを見せたコロナウイルスと同じである。今はまだ、真実を知る国民はほとんどいない。札幌市立病院の惨劇は数日前の出来事であるが、ついに政府が動き出し真実をひた隠している。
「藤井さん。昨日のテレビ見ました?」
今日で発電所での定検工事も残すところあと少しまできている。太田はいつもと変わらず、陽気に話しかけてきた。
「昨日もスロット行って、帰ったら酒飲んで寝ました」
「おもしろくない生活ですね。いやいや、昨日のテレビで最近の失踪事件と札幌市立病院の謎の閉鎖はゾンビ人間が原因だってやつですよ」
「へえ。そんなこと起きてるんだ。現場と家とパチンコ屋の往復だから知らんけど」
藤井は興味なさそうに答えた。
「やばいですって。俺はなんか信じちゃうなぁ」
太田は少年のように目を輝かせ、まだ何か言いたそうだったが、それを制止し作業に集中した。
その時。現場代理人が作業員たちに向かって叫んでいる。
「おーい!! いったん手を止めてくれ!! 発電所からの連絡で、政府から緊急事態宣言が出されているらしい!! それぞれの現場ハウスに戻って待機するように!!」
「藤井さん。なんですかね?」
現場代理人の言うとおり、作業を中断し現場の詰め所に戻った。詰め所に戻ると、すでに戻ってきていた作業員たちがテレビの前に集まっていた。藤井は太田と共にテレビの近くに行き、画面を見るとそこには内閣総理大臣が映っていた。
『国民の皆様に重要なことをお伝えいたします。政府ではこの問題を全力で対処しておりますので、決してパニックを起こさないでください......』
ひとりの作業委員がイラついている。
「前置きなげえよ。早く内容言えよ」
『現在、日本国内において未知のウイルスが発見されました。このウイルスを『ZB-1N型』と命名しました。このウイルスに感染した者は非常に狂暴になり、人を襲います。詳細については、全力で調べておりますが、未だ分からないことが多いです』
太田は目を輝かせながら、藤井の方を見ていた。
「ほらほらほらほら。昨日のテレビ、本当だったんですよ」
太田は事の重大性より、昨日のテレビ番組のことが本当だったことに喜んでいる。
『政府では二日後の12時を持って緊急事態宣言を発令し、不要不急の外出を当面の間、禁止とします。詳細については、官房長官より説明いたします』
作業たちはざわつきはじめたが、三年前のコロナウイルスによる緊急事態宣言に慣れているので、深刻に受け止めていなかった。しかし、この後、官房長官の説明を聞いて、そこにいた者は顔を見合わせた。
官房長官からの説明はどれも厳しい内容であった。
〇二日後の12時以降は当面の間、いっさいの外出を禁止とする
〇必要な生活用品は外出禁止までの間に購入すること
〇冠婚葬祭を含めてイベントのすべて中止
〇急病については救急車を要請
〇その他、緊急時は各市区町村の緊急窓口へ連絡
そして、官房長官の次の言葉には驚愕した。
『外出禁止を解除する前に外出していた場合は、武力をもって制止する場合があります』
いったい何が起きているのか、日本国民のほとんどは理解していなかった。
また、政府もその場しのぎの強硬策を決定したが、こんなことは長くは続かないことを今は気づいていなかった......




