第13話 序章
「若杉係長。どうですか?」
泉と内田は札幌市立病院に入院している若杉係長の元を訪ねていた。
「大丈夫は大丈夫だけど、びっくりしたよ。遺体安置所から物音がするから見に行ったら、ドアを開けた瞬間襲われたからな」
「そうでしたか」
内田が心配そうに若杉を見ながら話をしている。
「まあ。無理しないでくださいね」
泉が若杉に話しかけたところで、看護師の小野が入ってきた。
「若杉さん。どうですか?」
「大丈夫だよ」
「そうですか。先生のお話だと何もなければ明日には退院できるそうです」
泉は若杉が退院できると聞いて安心した。病院で万が一でもゾンビにでもなったら、被害が増えるからだ。若杉係長はウイルスの件をよく知らない。自分がゾンビになるなんて思ってもいないだろう。適当なことを言って、官舎に監禁すればよいだろうと思いながら、泉は目の前にいる若杉係長が本当にあのようなゾンビになるのか、やはり信じられないでいた。
「あと若杉さん。傷とは関係ありませんが、糖尿病の薬も置いておきますね」
「はい。ありがとう」
泉と内田は若杉係長に会釈をし、病室から出た。すぐには変化はないだろうと、その時は思った。
しかし、着実にウイルスの影は広がっている。あのコロナウイルスが世界的パンデミックを引き起こしたように、ゾンビウイルスもまた感染者の体内で増殖している......
泉と内田は病院から出て、刑事課長に若杉係長に変化がないこと、明日退院できるかもしれないことを伝えた。刑事課長からは、泉と内田に対して、一度、家に帰り休むよう指示を受けた。
その夜、札幌市立病院では、小野ではない別な若い看護士が夜勤勤務であった。5階のナースステーションにいると、突然、大きな音がした!! 若い看護士は大きな音のした方向に走った。502号室の近くまで来ると、今度は502号室の中から男性の叫び声がした!!
「わああああああ!!!!!! 助けてくれ!!」
「どうしました!?」
若い看護士が大きな声を上げ、ドアを開けようとしたところ、ドアが勢いよく開き、男性患者2名が走って出てきた。看護師は勢いよくぶつかり、反対側の壁にぶつかった。ぶつかった男性患者も同じように転んでいる。もう一人の患者は、声にならない声で叫びながら走り去っていった。
「痛い......なあ」
若い看護士は転んだ状態で、502号室の方を見た。そこには、もう一人、部屋にとり残された患者に抱き着くようなかたちで噛みついているというよりは食べている若杉係長の姿があった。
「きゃああああああ!!!!!!!!!!」
若い看護士は大きな声で叫ぶ。しかし、患者をむさぼっている若杉係長には聞こえていない。目の前の獲物を食べることに集中しているライオンのようだ。
その声を聞いた他の病室の患者たちも、ぞろぞろと部屋から出始めている。5階はわりと程度の軽い患者がメインなので、自分たちの足で歩けるものばかりだ。
そして、同じような時間、留置管理課長の自宅でも惨劇が起きていた。
「あなたどうしたの? 何かあった......きゃああああああ!!!!!!」
留置管理課長は、自分の妻に突然かぶりついた。実は、ゾンビとなった村上を留置場に連れていく際に右腕を噛まれていたのだ。留置管理課長は、それを誰にも言わず、隠していたのだ。
そして、また別なところでも......




