第12話 封鎖解除
昼を過ぎたころ、署長室の電話が鳴った。署長が電話を取ると、電話の相手はいきなりすごい剣幕で話し始めた。
「総務部長の佐藤だ!! 署長!! 警察署を封鎖とは何事だ!! 苦情が入っているぞ!! 今すぐ解除しなさい!!」
さすがの署長もびっくりして、返答がたじたじとなっている。
「さ さ 佐藤部長。これには、訳があって......」
「いいから解除しなさい!! 以上!! ツーツー......」
面倒なことになってしまった。どこからか本部に苦情が入ったのだ。総務部長は実質ナンバー2で、ノンキャリアのトップだ。さすがの署長も歯向かうことはできない。すぐに署長は、北警察署の封鎖を解除するよう署員に命じた。
「泉係長!!」
給湯室の換気扇の下で隠れて煙草を吸っていた泉のもとに、内田が走ってやってきた。
「どうした?」
「封鎖解除ですって!! 総務部長の命令らしいです!!」
「ん!? まだダメだろ!!」
「もう解除し始めて、署員もぞくぞく入ってきています!! 今から通常に戻すって!!」
泉は文句を言いたいのを我慢し、梅津にすぐに電話をし、事情を話した。
「泉係長。事情は分かった。それじゃあ、仕方がないですよ」
「大丈夫ですか?」
「断定はできないが、このウイルスが私の知っているものだとすると空気感染はしないはずだ。おそらく、粘膜感染だろう。分かりやすく言うとエイズウイルスみたいなものだ。ただ......」
梅津は何かを言いかけたところで、泉が電話を切った。
「分かりました。ありがとうございます。何かあればご連絡します」
泉は梅津から聞いた話を刑事課長に報告し、刑事課長は署長を含めた幹部たちに報告を行った。その後、刑事課長を除く幹部たちは自宅へと帰っていった。
「泉係長。」
私の上司である刑事課長だけは署に残り、今後について対応にあたっている。こういう真面目な人がいるから警察組織はぎりぎり成り立っているのだと泉はつくづく思った。
「はい。どうしました?」
「空気感染がないという話だが、若杉係長は噛まれているよな。もう外にも出れるし、内田と二人で様子を見てきてくれ」
そうだった。若杉係長は噛まれていたのだ。感染している可能性は高い。泉と内田は捜査車両に乗り込み、札幌市立病院の若杉のもとに向かった。
その頃、梅津医院の地下では梅津と田代が資料の精査、田代が大事に保管していた血液サンプルを再度調べていた。田代が梅津に話しかけた。
「梅津先輩。梅津先輩の言う通り、粘膜感染の可能性の方が高いとは思いますが、潜伏期間と発症までの期間がよく分かりませんね」
「村上君の足取りが分かればよいが、ただ、やはりコロナウイルスと同じで年齢や持病などの条件で変わるだろう」
「そうですね。今、北署にいる村上君を直接調べることができれば良いのですが」
「分かった。泉係長に掛け合ってみよう」
また、その頃、留置管理課長が自宅にちょうど帰ってきた。
「おかえりなさい。昨日は当直の日じゃなかったよね?」
妻が出迎えてくれた。
「ただいま。緊急招集がかかったんだ」
「あなた、顔色悪いわよ。もう当直のない部署に異動させてもらえば」
留置管理課長は不機嫌そうな顔をしながら玄関から自分の部屋へと向かった。留置管理課長は青白い顔をしていた。そして、しきりに右腕をさすっている......




