第11話 本部
署長は自分の席で完全に眠りについていた。時間は午前7時を過ぎていた。署長室の扉が開き、警務課長が入ってきた。
「署長!! 外にいる者から電話が入ったのですが、マスコミが来ています」
「ん。どうした?」
署長は突然起こされ、まだ寝ぼけている。どこから情報が漏れたのか、マスコミが警察署の前に来ているようだ。
「外にマスコミが来ています。なぜ、警察署が封鎖されているのか、中で何が起きているのかを聞いてきています。誰かがマスコミに情報を流したようです」
「そうか。適当なことを言って、追い返せ。一度、全員を会議室に集めなさい」
警察署の前には、来訪する者の対応をするため、何人かの警察官を配置していた。対応にあたる警察官に対し、札幌中央テレビの記者がしつこく聞いてくる。
「何度も言いますが、あるところからの情報があってきました。私たちもあまり信じられませんが、死体が動き出したと。警察署が封鎖されているのは、そういうことですよね?」
「申し訳ありませんが、お話しできることはありません」
対応する警察官も中で起きていることは聞かされていないので、本当に知らない。
「では、警察署に用事があるので、中に入れてもらえませんか?」
「それもできません。用事があるなら、私がここで伺います」
「分かりました。本部に苦情入れますね!!」
そう吐き捨てて、記者は帰っていった。
会議室には留置場の警戒をしている者を除き、全員が集められていた。警務課長が前に出て、話始めた。
「皆さん!! たった今、下にマスコミが来ています!! ここで起きていることは、ここにいる者とわずかなものしか知りません!! 犯人捜しはしませんが、これ以上の情報を外に漏らすことはいけません!!」
警察官が犯人捜しをしないなんて、これだから身内に甘いと言われるんだと、泉係長はつくづく警察官の嫌な性に嫌悪感を抱いた。
「それと、もうすぐ本部のお偉いさん方が出勤します!! 何かしらの指示があると思うので、指示があるまで、待機するように!!」
普段は温厚な警務課長も署長を気にしながら怒声を響かせている。
8時半を過ぎたころ、出勤したばかりの刑事部長室に当直指令の捜査一課長が説明をしに来た。
「失礼します!! 朝早く申し訳ございません!! ご報告があります!!」
刑事部長は現場上がりのたたき上げのノンキャリアだ。実は泉係長の新米刑事時代の刑事課長である。
「どうしたこんな朝早くから? 殺しか?」
「いえ。私もいまだに信じられないのですが、北警察署で不審死があり、遺体を収容していたところ、遺体が突然動き出し一般当直の警察官に噛みついたとのことです。さっぱり分かりません」
「なになに。ただの死亡判断が間違っていただけではないのか?それで、その被疑者はどうしている?」
刑事部長は公務執行妨害の被疑者という認識でいる。
「それが、医者の検死も行われており、死亡は確認しているそうです。被疑者は、留置場に入れておりますが、話を聞ける状況ではないそうです」
「分かった。もう少し情報を集めなさい。特異事案として、部長会議にかけよう」
「分かりました!! 本部の者も何人か北署に向かわせます!!」
刑事部長は半信半疑で話を聞いていた。刑事部長は会議で話すにしても情報が少なすぎることを心配していた。そして、北警察署にいる泉のことを思い出し、電話をかけることにした。
泉は刑事課の部屋に戻っていた。その時、携帯電話が鳴った。待ち受けには『権藤刑事課長』と表示されている。はじめに登録した時から名前を変えていないので、刑事課長のままだ。
「もしもし。お久しぶりです課長!! あ!? すいません部長!!」
転勤が多いこの職場では、以前の役職で呼んでしまうのがあるあるなのだ。
「おう久しぶりだな。元気していたか?」
「はい!! もしかして、北署のこと聞きましたか?」
「そうだ。お前に直接聞く方が早いと思ってな」
「ダメですよ部長。もう直接、話をするようなお立場じゃないんですから」
そう言って、泉は北警察署内で起きたこと、梅津ドクターらがうごいていることを刑事部長に細かく説明した。
「お前が言うなら本当なんだな。しかし、目の前で起きていることだけではなく、あらゆる可能性を考えるんだぞ。また、連絡する」
刑事部長からの最後の言葉は新任刑事のときに何度も聞いた。なんだか少し、懐かしい感じがした......




