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激戦と時間

  逃げようかと考えていると、オオカミが物凄いスピードでこちらに向かってきているのを感じる。


 考える暇もないな…。


 体は少し痛む程度で動かすには問題ない、息を吸い、ゆっくりと吐く。精神を集中させ、相手が来るのを待つ。


 俺に出来るのは相手の動きを感じ取り、反撃すること、危なくなったら逃げる。


「よし!」


 気合を入れ直しているとオオカミが近くまで来ていた。


『我の攻撃を受けても死なないとは、やはり貴様は生かしてはおけぬ、』

「あぁそうかい、それにしても不意打ちとは随分な事してくれるじゃねぇか」

『ふん、ようやく喋ったか。不意打ちだと?呆けていた貴様が悪い』

「チッ…」


 口論では分が悪い、思わず悪態をついてしまう。


 会話の最中に攻撃を仕掛けようとしたが、嫌な予感がして思いとどまる。


『まぁいい、お喋りは終わりだ。』


 そう言いながらこちらに向かってくる。


 どうする?そう考える間もなく、オオカミの前足が迫ってくる、前足の攻撃を後ろに跳び回避する、しかし、躱されたと判断したオオカミは前足を地面に叩きつけ石を飛ばしてくる。


 空中で体を捻りながら石を回避するが、意識が石に向きすぎた、オオカミの接近に反応が遅れる。


 前足の攻撃を腕をクロスさせ衝撃に耐え、そのまま飛ばされる。


 しかし、今度は横ではなく、斜め上に飛ばされたらしい、そのままオオカミが跳躍し、追撃しようとしているのを感じる。


 やばい…!


 そう思うが、空中で身動きが取れない、何かないかと探し、魔法の存在を思い出す。


 ゴブリンの矢を受け止めた時のように空間に板をだす、その板を足の裏で捉え、滑るようにして軌道をズラし、そのままオオカミとは別の方向に跳躍する。


 オオカミが一瞬驚いたように目を見開くが、すぐに冷静になり、俺が消し遅れた板を足場にし、こちらに跳躍する。


 更に板を出し、今度は地面に向かって跳躍する。今度は板を消すのを忘れない。


 オオカミは標的を見失い、そのまま先程まで俺がいた場所を通り過ぎ地面に着地する。


 さて、どうするか、躱すことばかりで全く反撃することができない。


 身体能力は互角、しかし、戦闘経験の差がありすぎる。


 絶望的な状況の中、オオカミから距離をとりながら、何か打開できないかと、ステータスを開く。


 ん?


 俺が目をつけたのはユニークの欄だ、残り時間が10分程度となっている。


 これに賭けるしかないか…。


 魔王はお断りだが、あのオオカミを倒せるような強力な能力が発現することを祈る。


 それまであのオオカミの猛攻を凌ぐのか…。


 はぁ…つらい、めんどくさい、魔法の練習がしたいと思ってはいたが、ここまで強いのはお断りだ。


 オオカミが後ろから迫ってきている、どうやら相手の方がスピードがあるようだ。


 木の隙間を抜けなんとかオオカミにおつかれまいと走るがそれでも着実に距離が縮まっている。


 オオカミと鬼ごっこをしていると、最初の洞窟前まで来てしまっていたらしい。


 洞窟の周りは木が少なく岩がゴツゴツしている。


 ここで迎え撃つしかないか…。


 もう少し時間を稼ぎたかったが、ここまでのようだ。覚悟を決めオオカミの方に向き直る。


『どうした、追いかけっこは終わりか?』

「そうだな、お前を倒す算段が浮かんだんだ、って言ったらどうする?」

『ふん、それは面白いやってみるがいい』

「随分余裕だな?」

『今まで逃げるのに精一杯だった者にわざわざ怖気付く必要もあるまい』

「そりゃごもっともで」

『言いたいことはそれだけか?』


 もう少し時間を稼ぎたかったがお喋りタイムは終わりらしい。


 いままでは先手を譲っていたが今度はこっちから行くとしよう。


 足に力を込める、ゴブリンの時のように加減は一切しない、そのまま跳躍しオオカミに向かっていく。


 オオカミが攻撃を横に躱そうとするのを感じる、オオカミの行き先を塞ぐようにして板を作り出す。


 オオカミが板に驚いている間に右の拳が顔を捉える。


 入った…!


 後ろに吹き飛んだオオカミを追いかけるように跳躍するが、相手も体勢を立て直し攻撃を躱す。


 躱しながら尻尾をこちらに振るのを感じる、すぐさま板を足に出現させ跳躍、進行方向にも板を出しオオカミに追い打ちを仕掛ける。


 相手は背中を向けたままだ。


 行ける…!


 そう思ったが、脇に強い衝撃を感じ、そのまま吹き飛ばされる。


 なんだ…?相手は背中を向けていたはずだ、空間把握のスキルを使っていたから、間違いないはずだ…。なら一体?


 そこまで考えていると今度は背中から衝撃を受け吹き飛ばされる。


 チッ…このままじゃまずいな…。


 随分ダメージを受けたがまだまだ行けそうだ、しかし、相手の攻撃のカラクリが分からないのでは、反撃ができない。


 吹き飛ばされた先は洞窟の前だった。


 またここか、そう思うのも束の間またも衝撃が襲う。


 板を出現させ受身を取りつつ相手の攻撃が何かを考える、しかし思いのほかそれはすぐ推測できた。


 魔法だ。あのゴブリンですから、魔法を使っているのだ、このオオカミが使えない道理はない。


 そう考え、自分を囲むようにして板をだす。


 …結界と名ずけよう。


 場違いなことを考えている間にも結界に魔法がぶつかっている感覚がある。


 よかった、耐久はバッチリのようだ。


 しかし、これでまた振り出しだ。今度は相手の魔法を掻い潜りながら近づかなければならない。


 …いや、なぜ近づく必要がある?相手が魔法を飛ばしてくるなら、こちらも魔法を飛ばせばいいんじゃないか?


 そう考え、早速試してみる。


 空間を振動させるイメージで、それを飛ばせばいいのか?


 …空間を振動ってなんだよ。粒子を素早く動かせばいいのか?…暖かくなるだけじゃね?


 思いがけないところで行き詰まる。


 空間系って攻撃手段ないんだなぁ…結界が思った以上に頑丈だ、無駄にのんびりしてしまっている。


 そういや、残り何分だ?


 ステータスを開きユニークの欄を確認する。


 残り2分


 残り2分か…このまま結界の中で過ごせないかな?


 甘い考えをかき消すような圧力を感じ、オオカミの方に目を向ける。


 …風が集まってる?


 ーグァアアアアアァァア!


 オオカミが咆哮したと思うと、竜巻のような塊がこちらに向かってくる。


 まずい、咄嗟に横の板を消し結界から飛び出る。


 竜巻側に板を出しながら移動をする、しかし、オオカミが進行方向に先回りをしていた。


 ーグァアアアアアァァア!


 うそだろ!?


 オオカミがまた竜巻を出現させる、後ろからも竜巻が迫ってきている。


 俺は結界を多重に展開しながら、身を固める。


 ーガガガガガガガガ


 結界の削れるいやな音が迫ってくる、結界が削れる度に結界を展開する。


 しかし、竜巻は威力が衰える素振りを見せない。いよいよやばくなってきた。


 いつ間違えた?早々に逃げていればこうはならなかったのか?


 いや、そもそもあの女を助けたからこうなったのか?


 考えても答えは出ない。


 最善は尽くしたはずだ、身体能力は互角、俺に足りなかったのは戦闘経験だ。


 ゴブリン程度に無双して調子に乗っていた。


 そもそもなんでこんな強いやつがこんな所にいるんだよ…!


 言い訳をしても、この状況が覆ることはない。


 この森に転生させたあいつに、心の中で中指を立てる。


 ちらりと、オオカミの方を見るとこちらを見下し、口元が歪められている気がした。


 その表情が、俺が前世で最後に見た彼女の姿と重なる。


 クソがっ…!


 悪態をつくが打つ手がない。


 そして、俺は、竜巻に飲み込まれた。

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