好物とチンピラ
辺りを観察しながら歩いていると、屋台がちらほらと見えてきた。
野菜を売っていたり、串焼きを売っていたりする。
そのうちの串焼き屋に向かう。
「らっしゃい!」
「1本いくらだ?」
「1本で銅貨1枚だ!あんちゃん若いな?10本くらい買っていくか?なんてな、ガハハハハ!」
随分とテンションが高い、ま、辛気臭い屋台があるとは思えないが、高すぎじゃないか?
「10本でいいぞ、丁度腹がすいてたんだ」
「おいおい、冗談のつもりだったんだが、ちょっと待ってな!銀貨1枚だ、用意しといてくれ!」
そういい、手馴れた手つき串を11本紙へと包む。
「1本多いみたいだが?」
「オマケだよオマケ!上客には媚び売っとくもんだ!ガハハハハ!」
「ありがたくもらっておくよ」
「おう!またこいよ!」
会話しながら銀貨1枚を渡す。
銀貨1枚で1000円くらいだな、なら金貨は1万円くらいか?
他の屋台を見て周る、するとなんと言うことでしょう。そこには、トマトが売られていた。
実は俺は、無類のトマト好きだ。三度の飯には必ずトマト。昨日の夜はとても物足りなかった。
歩く速度を少し早め屋台へと向かう。
「あら、いらっしゃい」
「このトマト1ついくらだ?」
「3つで銅貨2枚よ」
「あるだけ貰えないか?」
「…お金は大丈夫なの?」
「これで大丈夫か?」
金貨を1枚差し出す。
「…そんなに売ってないわよ」
「あるだけで構わない」
「わかったわ、少し待ってて」
トマトを紙袋に入れている間に、聞きたいことを聞く。
「トマトの種は売ってないか?」
「農場にいけばあるわ」
「すこし、分けてもらえないか?」
「…銅貨5枚でどうかしら?」
「あぁ、それでいいぞ」
「はい、これ。種は明日また来てもらえるかしら?」
「わかった」
トマト30個がはいった袋とお釣りを受け取り、浮ついた足取りで街を歩いていく。
少し歩くと噴水が見えてくる、待ち合わせ場所なのか、人が沢山いる。
噴水に腰を掛け、串焼きとトマトを食べる。
あぁ、幸せだ…。
トマトひとつで大袈裟かもしれないが、こればっかりは仕方がない。
「うぅ…お兄ちゃんお腹すいたよぉ…」
「もうちょっと我慢してくれ、俺がなにか盗ってくるから。」
「うん…」
何やら怪しげな会話が聞こえた気がするが無視だ無視、今俺はトマトの味を噛み締めてるんだ。少年が近づいてきているが、俺じゃないと信じたい、トマトは誰にもやらん。
だが残念な事に狙いは俺のようだ、盗人1人締め上げるのは簡単だ、しかし今はトマトのお陰で機嫌がいい。
「ほら、これやるよ」
「え?」
盗もうとした相手から、突然串焼きを差し出されたらビックリするわな。
「いらないのか?」
「…っ」
手を引っ込めようとすると、慌てて串焼きを奪い取られる。
「妹にも食わせてやれよ?」
「…ありがとう、ございます」
そういい、駆け足で妹の元まで向かっていった。
「ご飯だよ、ちゃんと食べるんだよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
人助けの後のトマトは最高だ…。
十分にトマトを楽しんだ、残りの時間はどうするか、ギルドに行ってもいいが、まずは宿か?いや、野宿でもいいから、宿の優先順位は低いな、せっかく見張りの人に聞いたんだが、宿よりギルドの場所を聞けばよかったな、そうだ。
兄妹の元まで歩いていく、まだ串焼きを食べているみたいだ、一口一口よく噛んでる、いい事だ。
「なぁ、少し聞きたいんだが」
「…っ」
「…ん?」
兄の方は食べるのに夢中で、こちらの接近に気づかなかったようだ、妹の方は何が起こったのかわかんないような表情をしている。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ大丈夫だ、です。」
「冒険者ギルドの場所を聞きたいんだが、場所知ってるか?」
「しってる、ます。」
「案内してくれるか?串焼き1本買ってやるから」
「…2本」
「図々しいな、いいけど」
「もう1個食べられるの?」
兄と会話している最中も妹は串焼きに夢中で最後の方しか聞いていなかったみたいだ。
「ギルドまで案内してくれたらな」
「ほんと?こっちだよ!」
空腹で倒れそうになっていた少女とは思えないほど元気に駆け出す、しかし前を向いていなかったのが悪かった。ガラの悪い男にぶつかってしまう。
「アァ?んだこのガキ、スラムのガキじゃねぇかよ、誰にぶつかったかわかってんのか?アァ!?」
「ヒッ…」
脅してる絵が様になっているくらいにはガラが悪い。慌てて兄が妹を庇う。
「や、やめろ!い、妹に手を出すな!」
「アァ?またガキが増えやがった、誰にぶつかったか分からないのか?Bランク冒険者のマウリッツ様だぞ!」
「び、Bランク…」
「おい、はやく頭下げて謝れよアァ!?」
「ひっ、ご、ごめんなさい!」
「すいませんでした、だろうが!」
「す、すいませんでした!」
「ふん、まぁいい、1発で勘弁してやるよ」
「え…」
兄の腹に蹴りをかます。
「う、うぁぁぁあぁ…」
「おーおー、手加減したんだが、死なないよな?」
泣き叫ばないのはいい判断だったな、あの手の奴はうるさいからと言って、もう1発追加するタイプだ。
トマトを食べた後にこんなもの見せつけられて少し居心地がわるい。
ガラの悪い男の方まで歩いていき、肩をぶつける。
「アァ!?今度は誰だ!」
「少しうるさいぞ」
「なんだとテメェ…この俺様がBランク冒険者のマウリッツ様だとわかってるのか!?アァ!?」
「へぇ、誰?Bランクって凄いの?」
「…ぶっ殺す」
少し煽っただけなのだが、男は背中にしまっていた斧を手に取る。
「ここ俺を舐めたこと、あの世で後悔するんだな!」
そういい斧を振り下ろす。
ーパシッ
「なんだ今の?蚊でも止まってたか?」
振り下ろされた斧は、俺の親指と人差し指に挟まれ止まっている。
「こ、この、はなしやがれ!」
男は斧を引き戻そうと引っ張るがビクともしない。
「ぬ、ぬけねぇ!」
「ん?返して欲しいのか?」
「な、」
思いっきり引っ張るタイミングで斧を離す、男は後ろに転がって行く。
「Bランクって大したことないんだな。」
「す、すげぇ…」
兄の方が腹を抑えながら感心したように呟く、俺としてはBランクのレベルの低さにビックリしてるのだが。
「テメェ…なにもんだ!」
「旅人だ」
「嘘ついてんじゃねーぞ!」
本当ことなのだが、信じないならそれでいい、わざわざ話を聞かない相手に話す必要もない。
「だったらどうするんだ?」
「ぶっ殺してやる!」
どうやら彼は頭が悪いらしい、Bランクって意外と低いじゃないか?この上にAランクとかSランク、もしかしたらSSランクまであるかもしれない、なんだ、やっぱり低いじゃないか。
「あ、あぶない!」
「もらった!」
躱さなくても大丈夫だから、避けないだけなんだが、傍目からみたらなかなかにやばい場面なんだろうな。
あくびが出るほど遅い攻撃を、適当なことを考えながら頭で受ける。
「へっ?」
「やっぱり、蚊でも止まってたのか?」
余程衝撃的だったのだろう、男は呆然として動かない。
「今日は機嫌がいいんだ、1発で勘弁してやるよ」
「え、やめ、」
足払いをし、空中に浮いた一瞬、顔面を地面へと殴りつける。
ードガン!
「ほら、はやく案内してくれ」
「あ、え、う、うん」
「すごーい!」
兄の方は終始驚いた様子で、妹の方はキラキラとした目でこちらを見る。
「こ、こっちです」
「こっちだよ!」
状況が理解できないままのようだが、こちらが催促すると案内を始める。




