第9話:結婚の阻止あるいは物理的に不可能
「では、さっそくお見合いの準備を…」
このAI執事は私の意思を無視してくる…こうなったら
「いい、バロちゃんと聞いて!
安室姓との結婚は、私にとって最大限の不幸なの!」
バロのホログラムは、首を傾げ理解できないのか。
「不幸でございますか?
源造様はレイ様の幸福を考え最適な姓を設定したと」
私はため息を一つ吐いた。
「あのね、名前だけで結婚を決める人なんて
居るわけないでしょ。
相手の性格とか収入とか容姿とか、
そういうのを判断材料に、自分に合うかどうか
それが、普通でしょ、さらに言うなら
私はまだ結婚するつもりなんてない!」
バロのホログラムの顔に人差し指を突きつけ
一気にまくし立ててやった。続けて…
「もし無理やり結婚させようとするなら、
私はハンストでもなんでもするからね!
そうなれば私の命が危ないけど
バロはそれでいいの?」
半ば脅迫めいたことを言ったが、これぐらい言わないと
バロはしばし沈黙し、
「かしこまりました。レイ様の生命を優先…
安室結婚プロジェクトも一時凍結いたします。」
よっしゃ、何とか説得できた。
私の心の平穏は守られた。
「では、そのほかの生活サポートとガソタムについては
お任せ頂けるということで宜しいですね?」
そうだ。まだ地下の巨大ロボットの件があったんだ…
「バロ、地下にあるガソタムの事なんだけど…」
バロはしばし沈黙し、AI執事で私のサポートをするって
言ってるんだから、いい案を出してくれるだろう
そう期待して私は聞いてみる。
「私の望みは、地下のガソタムを処分して
地下室を埋め戻すこと。誰にも見つからないように
できるかな?」
恐る恐るバロに聞いてみる。
これが切実な私の望みだ。
おじいちゃんの遺産は、物質的な意味でも
精神的な意味でも重すぎる。これがなくなれば
私の幸せは確定なんだけど…
しかし、バロの回答は私の望むものではなかった。
「演算終了…残念ですがレイ様の希望は
物理的に不可能です」
「物理的に不可能ってなんで?」
「まず、ガソタムの解体ですが…
ガソタムの装甲はネジ一本に至るまで全てが
源造様が作った特殊金属で出来ております。
現状、地球上のどの科学技術、重機でも
切断することができません。」
「は?」
何を言っているのか理解が追い付かない
うかつにも間抜けな声を出してしまった。
「例外として、ガソタム自身の出力、兵器などであれば
計算上では破壊は可能ですが、それはガソタムの
起動を意味します。
起動すれば、その駆動音、エネルギー波形は
この世界の無能な軍隊でも感知するでしょう」
いやいや、軍隊を無能だなんて言っちゃ
いけないよバロ、は、は、は、…
頬に冷たい汗が流れる感覚を覚える。
バロはさらに説明を続ける。
「地下の埋め戻しについてですが
地下を埋め戻しするために必要な土砂は約50万t、
10tトラック5万台分です。
さすがに秘密裏に埋めることはできません。
費用も100億~300億ほどかかるでしょう」
処分することも埋めることも許さない
その真実を聞いてがっくりと肩を落とす…
「結論として処分及び埋め戻しは得策ではありません。
唯一の方法として、このまま隠蔽をして
自然に朽ちることを待つのがよろしいかと。
特殊金属といえど金属ですからサビなどで
劣化いたしますので」
「なにそれ、50年とか隠し通せって言ってるの?」
死ぬまで隠し通すと決意してもいざ数字を聞くと
さすがにへこむ…
「50年?レイ様、源造様の特殊金属を侮ってもらっては
困ります。計算上、ガソタムの形を保てなくなるには
およそ10万年の時間が必要でございます」
「じゅうまんねん…」
思わずひらがなになってしまった。
あまりに桁違いの数字にほほをつたっていた汗が
大量に、背中まで到達する。私は若干混乱して
「10万年なんて、無理に決まってるじゃない!
他に方法はないの?
ヘイ、バロ!ガソタムの処分の方法を教えて!」
「落ち着いてくださいレイ様、私はシリではありません」
「うるさーーーーい!、もう駄目よ‼
警察が!自衛隊が!軍隊が!
私のことを捕まえに来るぅぅぅぅぅ!」
「大丈夫です。レイ様。ご安心ください」
混乱する私にバロがささやく。
「ガソタムのみならず、地下室やこの地上の家も
特殊金属で出来ております。
この施設に籠城している限り逮捕されることは
ありません」
「安心できないわよ!えっ⁉何?この家特殊金属なの?
じゃあ、10万年残るのこの家?」
バロが「その通りです」と答えてさらに私は震える…
10万年残る家、そんなの世界遺産に認定されちゃう…
うわーーーん!
思わず大泣きしてしまう。
バロが「レイ様落ち着いて」と言ってくるが無理だ
高校生が大泣きする。かなり特殊な状況だが
私は…バロの説明を受け止めきれず
感情が心からあふれてしまった。




