第21話:魅惑のエステサロンあるいは戦術的な恋愛相談
入浴が終わり居間に戻る。
さてドライヤーは一つしかないから順番ね。
とそう思っていた時期がありました。
「皆様、今から御髪を乾かさせていただきます」
バロの声と同時に天井から
複数のロボットアームが降り出てくる。
温風を送るアーム、
髪をとかすアーム、
果ては化粧水と乳液を
顔に叩き込むアームまで。
「全自動で全部やってくれる~超楽~」
「さすがに、過保護じゃない?」
サキとチカは動くアームに全てをゆだねていた。
まあ、私も楽だから文句はないけど…
「湯上りに水分補給をどうぞ。
冷やし抹茶ラテをご用意しました」
…至れり尽くせりのレベルを超えている。
用意された抹茶ラテを見ると何層も色わけしてあり
グラデーションがとてもおしゃれだ。
本当に器用だなバロ…
気が付けば爪までピカピカに磨かれていた。
高級エステも真っ青なクオリティに
二人も大満足しているみたいだ。
さて、そろそろいい時間だ。
寝る準備をしに行かないと…
そう思って立ち上がろうとしたときバロがほほ笑む
「レイ様、お部屋の方に就寝のご用意は
すでに完璧にしておきました」
だめだ、この執事有能すぎる。
「そ、そう…、じゃあ、サキ、チカ
部屋に行こうか?」
「わーい、パジャマパーティだね~
これからが本番、今夜は寝かさないよ~」
「サキ、ほどほどにね…」
「は~い」
三人で私の部屋に向かっていくと後ろから
バロがしれっとついてくる。
「バロ、なんでついてくるの?
ここからは女子だけの時間なのよ」
「はい、皆様の濃厚な女子トークのサポートを
お任せください」
「いらないサポート⁉
いいから、バロはついてこないで!」
バロにきつく言いつけるとサキが意外そうに
口を挟んできた。
「えーいいじゃん、うらら。面白そうだし
仲間に入れてあげようよ」
「そうね、バロに恋バナとかしたらどうなるのか
ちょっと気になるかも」
チカまでサキの味方をしてくる。
バロが「そらみたことか」とドヤ顔をしている。が、
「なに言ってるの?こんなデリカシーゼロの
AI執事にプライベートを握られてどうするの!
ほら、バロはあっち行って!」
私の命令が効いたのか、バロがおとなしく引き下がる。
「では、私は廊下で待機いたします。
何かございましたらご遠慮なくお申し付けを」
バロは名残惜しそうにスッと音もなく
後退し、廊下の闇へ消えていった。
よし、これで一安心。
…部屋に入り私は絶句した。
部屋には私のベッド、その横に二人の布団が敷かれて
いると思っていたのだが…
「わーい、これ映画とかで見たことある~
アラブ大富豪の寝室みたいじゃん!」
見たこともないフカフカのペルシャ絨毯が敷かれ
中央には超巨大な天蓋付きのキングサイズマットレス
金糸の刺繍が入ったクッションがこれでもかと
山積みにされている。
部屋の隅からは甘いアロマの香りが漂っている。
サキが真っ先にベッドへダイブした。
サキテンション爆上がりである。
するとチカが
「うらら…私たちを自分のハーレムにするつもり?」
「そんなわけないでしょ…」
バロ、本当にやりすぎだよ…
はしゃいでいるサキが
「二人も早くおいでよ~」と言ってくる。
まあ、しょうがないか、私とチカはベッドの
上にゆっくりと上がっていった。
「これじゃ、うららのハーレムじゃなくて
サキのハーレムに入る感じだね」
的を射たチカの指摘に、苦笑いするしかなかった。
イメージしていたパジャマパーティとは
ほど遠いが、楽しいからまぁいいか。
しばらく盛り上がった後、唐突にチカが
「そういえばサキ、気になる人が出来たんだって」
と恋バナ要素を振ってきた。
キタ!これこれ!恋バナを聞きたかったのよ!
「チカ!そんなんじゃないよ!やめようよこの話題」
赤面したサキがチカに抱き着き口を塞ごうとするが
チカは「いいじゃない」なんて笑っているけど
私は逃さない!
ドキドキしながらサキを質問攻めにしていく。
「サキ、気になる人って誰?同じクラスの人?」
「聞いてようらら、
実は隣のクラスの人でサッカー部の…」
チカがサキの代わりに答えてくれる。
サキはクッションに顔を埋めてじたばたと悶えた。
「脈拍上昇を確認しました。これより
会話内容を解析し、恋愛成功率をシミュレーション
いたします」
突然のバロの声
「⁉、ちょっとバロ、入ってこないでって言ったよね!」
バロに抗議の声を上げるがしれっと
「はいレイ様、ご命令通り部屋には入っておりません。
この部屋に設置してある各種センサーにより
状況を理解しております」
それは、盗聴なのでは?
さっさと全部のセンサーを切れと言おうとしたところで
「バロ、恋愛相談とかもできるの?」
サキとチカがバロがどんな事を言うのか
興味津々になっている。
「はい、皆様の濃厚な女子トークのサポートは
執事としての必須スキルです」
執事にそんなスキル必要ないだろ!
私の抗議も無視してバロは続ける。
「サキ様の意中の相手に対するアプローチとして、
相手の防衛ライン内に攻め入り近距離で高出力で
笑顔を発射!そのまま、相手陣地をせん滅
するのが最良かと存じます」
「どんな、サポートよ…
戦術と恋愛をごちゃまぜにしないでよ」
あきれて、バロへの抗議にも切れがない
はっきりわかることはバロに恋愛相談は無理って事ね。
「えーっと、遠距離攻撃は効果が薄いから
近接戦闘で相手の心を撃破ってこと?」
「いや、サキも真面目にとらえなくていいから!」
まずい、バロに毒されてサキまでおかしくなってきた。
早くなんとかしなければ…
なんてことを思っていたら壁からプシュッと
謎の白い霧が噴射された。
「皆様、現在午前1時を回りました。
健康や美容のためにそろそろ就寝しましょう」
白い霧を吸い込んだ瞬間、強烈な睡魔に襲われる。
え、待って、まだ恋バナし足りないんだけど…
「それでは、皆様、お休みなさいませ」
「ちょっと、バロ…まだ恋…バ…ナ…」
強制的に睡眠に引き込まれ私の意識は遠のいていく。
明日起きたら絶対に文句言ってやるんだから…
そうバロへの不満を抱えながら
夢の世界へ旅立つのだった。




