第16話:おじいちゃんの家の科学力あるいは不信感の塊
麦茶を持って居間に戻る私。
二人を見ると、なにやらあたりを気にしている。
何か不審な所があるのだろうか…
「ねえ、うらら…この部屋、いやに涼しいけど
エアコンってどこにあるの?」
「へっ?」
言われて初めて気がついた。
今は6月末、猛暑ではないが、外の気温は
それなりに暑い。
なのに、この家の中はまるで高原の避暑地みたいな
さわやかな空気で満ち溢れている。
『レイ様。この家の空調も源造様が開発した特殊金属、
ガソタムの装甲にも使われておりますがその特性です
外気を完全に遮断し、室内の熱をエネルギーに
変換することで室温を25°に保っております』
…脳内に響くバロの説明
エアコンを使わないなんというエコロジー。
おじいちゃんの技術にあきれて…
いやあきれている場合じゃない、
「あ、あはは…、これ、えーっと…
ああ、これ最新の壁埋め込み式のエアコンなの
おじいちゃん新しもの好きだったから…」
苦しい言い訳
壁埋め込み型のエアコン?そんなの聞いたことないよ。
バロも、『たしかに壁も特殊金属だから埋め込み式と
言えばそうですが』なんて言ってくるけど…
「へー、初めて見たよ、今そんなのがあるんだね~」
サキは感心したように壁を軽く拳で小突く。
あっ、だめ!金属音が響いちゃう…
「風とか出てないのに涼しいなんて不思議だね
でも壁がすっきりしてておしゃれかも」
チカも納得してくれているようだ。
ふー、よかった。
「あ、うらら、トイレ借りて良い?」
私が胸をなでおろしているとサキが聞いてくる。
とにかく壁から目を離すならこっちのものだ。
「トイレね、廊下の突き当り、右の扉だよ」
トイレの場所を教えてサキが「ありがと~」と言って
居間を出ていく。
残された私とチカで会話を楽しんでる。
よかった、チカも壁への興味がなくなったようだ。
タタタッ、廊下を走って居間に近づいてくる音がする。
サキが戻ってきたかな?と思った瞬間。
「うらら!あのトイレの芳香剤すごいね!
めちゃ、いい香り!
どこのメーカーの物なの?私の家もあれにしたい!」
「ほ、芳香剤…?私は芳香剤なんて…あっ!」
うかつだった、私がこの家に引っ越してきて
芳香剤なんて一回も買ったことないし置いたこともない。
それなのに、トイレを使うときいつも
清潔でフローラルな香りがしていた。
いつも使っていて当たり前になっていたので
疑問にも思わなかった。
「え、えーっと、芳香剤ね…どこのだっけな…
あっそうだ、実はおじいちゃんの伝手で
知り合いの調香師の人から特別に譲って
もらっていて…あはは…」
どこのメーカーなんて答えられるわけない
だって私買ってないもん。
「えーでも、どこから匂いを出してるの?
トイレのどこにもそれらしきものがなかったよ?」
「ああ、それはトイレに直接薬剤を入れる方式で…」
ふーん、と一応納得してくれたのかな…
今度はチカがトイレを貸して、って言ってくる。
チカがトイレに行こうと立ち上がった時に
サキが「本当にいい匂いだよ」ってチカに伝えてる。
まあ、トイレに関してはこれ以上、疑念は出て
来ないはず。
トイレから帰ってきたチカが感想を述べてくる。
「本当にいい匂いだね、バラの香りかな?」
「バラの香り?オレンジじゃないの?私の時は
なにか柑橘系の香りがしたよ?」
…固まる私
『トイレには使用者の脳波を測定し、その時に適切な
香りを便器内のノズルから噴射させております』
バロ、やりすぎだよ…
ごまかすのも大変なんだけど…
「トイレ自体に何種類か入れられるようになっていて
時間経過で香りが変わるの!すごいでしょ!」
さすがに…自分でも苦しいとわかる言い訳を
二人にするが、
「うらら、さっきから何か隠してない?」
「そうそう、さっきのお菓子が勝手に開いたのもそうだし
絶対なにか隠してるよね?」
うぅ、いぶかしがってる…これ以上は…どうしよう。
『レイ様、ゲストの脳波を測定、不信感の数値が
基準値を超えました。
当家の秘密保持のため、催眠香の投与及び
電磁パルスでの記憶消去を実施…』
「やめて!」
いきなり声を荒げた私にびっくりする二人。
でも秘密がばれそうになったからと言って、
バロの提案は受け入れられない。
「うらら、どうしたの?急に声を上げて…」
二人が心配そうに私をのぞき込んでくる。
「いや…、そ、そう、そろそろお菓子はやめて
夕食にしない?
これ以上お菓子食べたらごはん食べられなく
なっちゃうから…」
苦しすぎる…これはごまかせないよね…
でも、ここは貫かないと…
「私、夕食の準備してくるね、カレーでいいかな?
二人はここでくつろいでてよ」
二人は、私たちも手伝おうかって言ってくるけど、
「大丈夫、カレーなんて簡単だし一人でできるから」
と言って逃げ出すように居間を出る。
居間からキッチンへ向かい、
確か市販のカレールーがあったはずだ、それを
普通に作り、ごく普通の女子高生を演出する。
それしかない!
そう言ってキッチンの扉を開けた瞬間、
私は膝から崩れ落ちてしまったのだ…




