違う、そうじゃない
「灰を土に撒くと、一瞬で作物が育つ」
そんな「ウソ」をついた。
澄んだ不思議な音が脳内に響いた。
成功したようだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
先日、イモを配った。
だが、配ったのは領主の館がある町だけだ。
領内全体に食糧が行き渡るようにしなければならない。
もちろん今回のように石ころを売った金で食糧を買うこともできる。
だが、それではダメだ。
俺がいなくても、領民が食べていけるようでなければ意味がない。
いつまでも俺がいるとは限らない。
何より、領収入が増えなければ領地は維持できない。
だから、今回収穫アップの「ウソ」をついた。
日本にいた頃、草木を燃やした灰は肥料になると聞いたことがあった。
この世界でも灰を肥料として使っていれば話は早い。
灰なら、どこでも手に入りやすいはずだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
とりあえず、数日様子を見てみることにした。
どこかの農家で、昨日撒いた種が、今日収穫出来るようになったと、騒ぎになっていた。
いいね。
想定通りだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
だが、予想外の事が起こった。
その農家に、灰を買い求める人が、次々と現れるようになったらしい。
あぁぁぁ、違う。
そうじゃないんだ。
誰の家の灰でもいいんだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
……って、俺が言っても、伝わらないだろうな。
はぁ……
とりあえず新しく任命した代官を呼び、畑へ灰をまくよう住民に伝えてもらうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エリナが馬を買ってきた。
動物好きなのかな?
餌代は、オリハルコンの売却代金がまだ残っているから問題ないだろう。
屋敷は焼けた。
小さな屋敷は建てたが、厩舎はまだない。
とりあえず、木の下で飼うようだ。
まだ小さいので、馬には乗れないらしい。
時々、遠くへ連れて行ってほしいとせがまれる。
かわいいなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日帰りできる範囲だけ、連れて行くことにした。
エリナは行く先々で地元の人と話している。
何を話しているのかは知らない。
聞こうと思えば聞ける距離だ。
だが、そんな無粋な真似をするつもりもない。
まぁ、人と話すのが楽しいのだろう。
俺が近づくと地元の人が警戒するので、遠くから見守るだけだ。
昨日は東。
今日は西。
明日は北。
その次は南。
「そんなに色んな場所へ行って楽しいか?」
「うん!」
エリナは笑った。
だが、その視線はどこか真剣だった。
領の端までは、さすがに日帰りでは厳しい。
まぁ、そのうち機会があれば連れて行ってやろう。
行く先々で領民の暮らしも見て回るが、残念ながら食糧事情はどこも厳しいようだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
リキャスト音は、まだ鳴らない。
でも、俺は次の「ウソ」を考えていた。
考えることはどこでもできるので、
エリナを眺めながら、次の一手を練っていた。
・ ・ ・ 数週間後 ・ ・ ・
市場に並ぶ野菜が、明らかに増えていた。
畑の収穫量は目に見えて増えているらしい。
代官からも、飢え死にする者が激減したと報告を受けた。
代官は今回の成果を俺のおかげだと信じている。
だが、領民は誰一人信じてくれなかったらしい。
正直、少しくらい感謝されてもいいとは思う。
でも、今はそんなことより、飢える人が減った方が大事だ。
少なくとも俺が撒いた「ウソ」は、人を救えたらしい。
ひとまずは安心、といったところだろうか。
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※※ 次回 6/22 21:00 公開 ※※
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