改宗か、戦争か
「まさか、自分の国と戦うことになるなんて……」
・ ・ 4時間前・ ・ ・ ・
王城に着くまでの間、オリハルコンが貼られた防弾馬車を貫通する攻撃は、あの1回だけだった。
何かの警告の意味だったのだろうか?
王城に着いても、さっきの攻撃のことが頭から離れなかった。
俺はレスタにエリナを預け、馬車で待つようにお願いした。
王城に入ると、諸侯たちの列ができていた。
人波に紛れて進んで行く。
皆、目的地は同じようだ。軍議の間に向かっている。
気のせいか、他の諸侯の装備がしょぼく見える。
すべて鉄製か、青銅製という感じだ。
俺だけダンジョン産の装備(たぶんオリハルコンか、それ以上の素材)なので……浮いてる気がする。
軍議の間では、下級諸侯の当主が先に部屋に入っていたが、立ったまま待っていた。
ん?
こういうの上級諸侯が座るまで、座れないんだっけ?
やたら豪華な椅子が1つだけある。
おそらく、そこが王様の席だろう。
じゃあ公爵の俺は、その隣でいいかな。
ドカッと椅子に腰を下ろした。
他の諸侯たちも席に着くが、王様に近いところだけ、あからさまに空席になっていた。
まぁ、気持ちはわかる。
1時間待った──
まだ来ない。
2時間待った──
諸侯の何人かは居眠りを始めた。
3時間待った──
さすがに半分くらいの諸侯が寝ている。
まわりが寝てるので、つられて眠りそう……。
少し首がカクンカクンしたころ、やっと主役が現れた。
全員起立する。
諸侯たちは、隣で寝てる諸侯を蹴飛ばしたりして、無理やり起こしていた。
俺の隣は空席なので、それに加わる必要もない。
ドドソソ・ララソが領地を返上したから、椅子が1個余ってるのかもな。
王様が口を開いた。当然遅れてごめんという謝罪はない。
「それでは軍議を始めよう」
王様が着席し、諸侯にも座るよう指示したので、皆も着席した。
王様の胸元には、ひときわデカい胸飾りが飾られていた。
ラシド教団の信者を表すものだ。
こういうお守りみたいなのは、普通、服の中に入れておくものだと思うのだが、わざわざ鎧の外に出して見せている。
まわりを見渡す。
他の諸侯たちも、慌ててラシド教団の胸飾りを目に見えるように鎧の外に出す。
……え?
持ってないの俺だけ?
これ、踏み絵みたいなヤツか?
持ってないと袋叩きコース?
ちょっと怖い。
「我が国は、クフィール王国と共に人類の敵、魔王の討伐を行うことになった」
ラシド教団は魔王を憎み、クフィール王国に何百年と戦争を続けさせていると聞いている。
うちの国の王様や諸侯たちも信者になったのなら、当然、教団主導で魔王領への戦争を行うだろう。
戦争の理由は、聞くまでもなさそうだ。
王様が俺の胸元をジロリと見る。
俺は、そんなの持ってない。
……え? 胸元じゃなくて、その下?
いやん、エッチ。
王様の瞳がピンク色に光った。
うぉっ!? この前、神官が使ってたヤツだ。
「わしは、このたび大神官にも任命されたのだ。
当然、お前も改宗するよな? ファリス!」
ピンク色の光が消えない。怖ぁ~っ。
だけど、この洗脳魔法みたいなのは俺には効かなかった。
「申し訳ありません。私はそれに従うつもりはありません」
言い切った。
諸侯たちが騒ぎ立てる。
「改宗しろ!」
「改宗か、死か選べ」
「異教徒は殺せ!」
えらい言われようだ。
諸侯たちが騒ぎをやめない。
「何でおまえのとこだけオリハルコン取れるんだ」
「灰公爵は灰になってしまえ」
「ロドスの灰を独占するなんてずるい」
「ロリコン公爵!」
……宗教とは関係ない話になってないか?
気のせいだよな?
……気のせいじゃない気がする。
ロリコン公爵って、あれか、ミミレ神官が、エリナと幼女姿のミカン(魔王)を見てきたのが伝わったのか?
「1日猶予をやる。
その間に改宗しろ。
でなければ、魔王領の前にロドス領を攻撃する」
「わかりました」
改宗する気はない。
だって改宗したら、こっちの魂を消費されかねない。
そんな教団と心中するつもりはない。
この際、自国とだって戦ってやろうじゃないか。
こうして軍議という名の「踏み絵大会?」は幕を閉じた。
俺は急ぎ自分の領地に戻ることにした。
馬車に戻り、俺はレスタとエリナに今回のことを話した。
「独立することにした」
「はぁ??」
レスタは、俺の決定を聞いて派手に驚いた。
エリナは、それを予想してたのかコクリと頷いた。
「王様はラシド教団に改宗し、教団主導の戦争に参加するよう言ってきた」
「うん……」
レスタは相槌をうち、エリナは静かに聞いている。
「ラシド教団ってのは危ないヤツらなんだ。
信者の魂を燃料にして神術というのを使ってくる。
だから、改宗したら寿命を削られる危険がある」
「そんなに危ないんだ」
「うん、危ない」
エリナが言う。
「改宗しないと、ロドス領を攻めると言ってきた」
「なるほど」
「実は、うちには魔王様も住み着いてるので、改宗しなくてもロドス領は攻められる運命だった」
「は? なんでそんなのがいるのよ!」
「勝手に住み着いたんだよ」
「ネコじゃあるまいし」
「ネコなんだよ」
「……え??」
「そう言えば、行きも不思議に思ってたんだけど何でこの馬車蛇行しながら進んでるの?」
もしかして、日本でパラララパラララとかいう音を出して蛇行運転してた人たちと同じような趣味が?
「そうしないと落ちるからよ」
なんて?
「落ちる? こんなに大きな馬車が?」
「うん」
マジか?
「ロドス領、ララソ領以外は、
道路に落とし穴を作るのが流行ってて、
巧みに道に偽装した落とし穴がたくさんあるの」
「それらしいものは、見かけなかったけど」
「それだけ巧妙に作られてるのよ」
そんな話をしながら、もうすぐロドス領だとホッとした。
その時だった──
馬車を目掛けて50本くらいの矢が飛んで来た。
カン、カン、カカカ……。
しかし、オリハルコン板が矢をはじいていく。
御者の部分は、ガラス貼りなので弱いハズだが、ヒビは入ったものの、何故か割れなかった。
時々、火矢も飛んで来たが燃えずに済んだ。
ただ、馬だけは、完全に覆っていなかったので、2頭のうち1頭が犠牲になった。
レスタは即座にその馬を切り離し、残り一頭でロドス領まで逃げ切った。
ロドス領の入口にも、待ち伏せがいた。
その中の1人が放った矢は、また防弾馬車を貫通してきた。
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次回『高くしろとは言ったけど』
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・・ 次回 毎日 20:00 公開 ・・
※※ 本日は、この1話のみです ※※
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